平井和正『美女の青い影』角川文庫 1976年

 2編の短編と,4編のショート・ショートをおさめた作品集です。いずれもジュヴナイル作品で,作者自身の言に従えば,この作者にしてはきわめて稀少なテイストのもののようです。
 この作家さんの作品を読むのは何年ぶりでしょう。友人から薦められて「ヤング&アダルト・ウルフガイ・シリーズ」を読んだのが中学生の頃ですから,じつに20年振りかもしれません。いやはや・・・(°°)

「美女の青い影」
 “ぼく”の家の近所ある古い洋館。そこに引っ越してきた美女には,恐るべき秘密が隠されており…
 幼なじみで活発なガールフレンド,頼りになる年上のいとこ,そして妖艶で謎めいた美女への想い・・・なにか,こう,読んでいて照れくさくなりながらも,けして嫌いではない,まさにジュヴナイルに「お約束」のシチュエーションですね。平凡な貧しい女子高生が,なぜ天才的な美女に変身したのかという謎が牽引力になり,さらに,彼女の周囲に怪しげな男たちが出没し・・・という展開が,ストーリィにスピード感を与えています。思春期の少年が,おそらく誰しも経験する,年上の女性に対する思慕を,SF的手法で,巧みに切り取ってみせています。
「赤ん暴君」
 大阪で保護された少年は,1冊のノートを残して,警察から忽然と姿を消した…
 「子ども」と「超能力」という組み合わせは,大友克洋の名作『童夢』を思い起こさせます。しだいに「赤ん坊」の「力」が発現するプロセスを,小出し小出しに描き出しているところは,じつに効果的で,じわりじわりと恐怖が盛り上がってきます。またラストの落とし所も巧く,本集中で一番楽しめました。
「人の心はタイムマシン」
 かつて出会った美少女を忘れることができない彼は…
 「美女の青い影」と同様,少年期の恋心をSF的手法で描き出した作品です。クライマックスはちょっと不気味なところもありますが,ラストの一文で,ほっと溜め息が出るような安堵感があります。
「月の恋」
 月と地球を距てて恋をする少女と少年を待っていた苛酷な運命とは…
 せつない雰囲気に満ちた展開ですが,アイロニカルなラストは,ある意味,すごくグロテスクです。なぜなら,少女の別れは,少女が口にしたなにげない残酷な言葉―「かっこわるい」―がもたらしたものともとれるからです。
「消去命令」
 脱走者を保護するため地上に出た“わたし”は…
 ラストで明かされる“わたし”の正体の意外さが眼目なのかもしれませんが,う〜む…ちと陳腐な感が拭えません。
「その名はタミー」
 母が死んで1年しか経たないのに,父にはもう愛人がいるらしい…
 この作品もオチが見当ついてしまうところがあります。それにしても,この作品に出てくる「ポケット電話」,今の携帯電話を予見していると言えるでしょう。古いSFを読むと,現在が充分「SF」なのだと痛感します。

00/07/18読了

go back to "Novel's Room"