清水義範『バールのようなもの』文春文庫 1998年

 おさめられた12編のうち5編の初出が,なぜか雑誌の1月号という不思議な巡り合わせ(?)の短編集です。気に入った作品についてコメントします。

「バールのようなもの」
 ニュースのアナウンサが口にした「バールのようなもの」とはいったい…
 日常のありふれた言葉や言い回し,あるいは物品などに,屁理屈をつけて「分析(笑)」する,この作者お得意のパターンですね。ちと強引ですが・・・^^;;
「○○についてどう思いますか」
 テレビの街頭インタビュウにそれぞれ答えるのだが…
 「肉声」という名の「虚構」,「編集」という名の「歪曲」…,なんかありそうな話です。
「みどりの窓口」
 「みどりの窓口」には,今日もまた,傍迷惑な客が…
 これまたありそうな話,というより,あるんです(断定!)。なにしろ経験者ですから(笑)。わたしの前にいたおばはんが「空いてる席,みんな見せて」と言っているのを聞いたことがあります。
「役者語り」
 あるシェークスピア劇の役者が,インタビュウに答えて…
 最初はふつうのインタビュウなのですが,途中からなにやら様子がおかしい,どうやら「歌舞伎」の世界をシェークスピア劇に仮託して描くパスティーシュらしい(役者の名前が「カンクーロ・ナッカム」ですから(笑)),と思いきや,ラストで二転三転,怖くなったり,ホッとしたり,「にやり」としたり…,う〜む,巧いです。本作品集中,一番楽しめました。個人的には,清水作品の中で,けっこう上位にランキングされます。
「豪奥新報元旦号第二部」
 あらすじは省略,というより書けないです(笑)
 元旦の新聞には,必ずといっていいほど,妙に分厚い「第二部」がついてきます。そのパスティーシュ。架空の過疎地方の元旦号第二部です。いかにもありがちな項目設定に,なにやら読んでいて「おもろうて,やがて哀しき・・・」的な内容です。とくに豪奥村出身の「高見ユリエ(タレント)」の自己紹介は秀逸。
「山から都へ来た将軍」
 木曽義仲は,平家討伐のため上京するのだが…
 もしかすると,こんな風だったのかもしれないな,と思わせる,一種の「偽史もの」でしょうか? 歴史小説のパロディとも読めます。
「新聞小説」
 これまたあらすじの書けない作品です。新聞に連載されているさまざまな小説のパスティーシュ。歴史物から,エロ小説,ミステリ,実験小説などなど,多彩な内容です。それぞれの「元ネタ」を想像してみるとおもしろいかもしれません。でも,新聞小説って,そんなに読まれてないのかなぁ? わたしは読まないものの,母親はけっこう好きだったように記憶してますが・・・。

98/09/16読了

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