小池真理子『怪しい隣人』集英社文庫 1998年

 相変わらず“人の悪い”(笑)6編より短編集です。

「妻と未亡人」
 死んだ友人の妻が無心に来た。宇津木は妊娠している彼女のためにいろいろと助勢するのだが…
 この作者の描く男は,“バカ”が多いですねぇ。読んでいてひたすら情けなくなります。ラストが唐突なのが少々いただけません。
「家鳴り」
 夫がアメリカに単身赴任の波子は,夫の老母と暮らしていた。死んだ舅の部屋が痛み始めたので,修理を頼むのだが…
 ストレスで主人公の心が崩れていくところは,「なんでこんなことで?」みたいな感じで説得力があまり感じられませんが,エンディングの嗤い声が底知れず不気味です。そういえば実家もときどき家鳴りがしていたなぁ・・・,子ども心にすごく怖かったことを憶えています。
「終の道づれ」
 多江はただ静かに暮らしたいだけ……なのにいとこの千代子はなにかと彼女を引っぱり出したがり…
 この作品のラストも唐突な感じがするのですが,読んでいる途中,多江に感情移入し,千代子や,多江に言い寄る関根に対して,かなり苛立ちを感じていたので,最後にすっきりしてしまいました。そんな自分がちょっと怖い・・・。
「寺田家の花嫁」
 都会の生活にうんざりした“私”は,過疎地域の嫁探しを目的としたキューピッド・パーティに参加。山形の山奥に住む村田光生という男と結婚することになったが…
 都会に住む人間は,田舎に行くと必ずといっていいほど「自然がいっぱいで素敵ですね」というようなことを言いますね。そこに住む人がどう思っているか考えようともせずに・・・。「妄想」と「現実」が二転三転するラストがいいですね。
「本当のこと」
 父親が死に,母親が病気療養することになった娘を,彼女の中学受験まで引き取ることになったが…
 「真実と太陽は直視できない」という言葉があります。「本当のこと」,それは人間にとって一番恐怖を感じることなのかもしれません。
「隣の他人」
 愛人と週末のデートを楽しむために借りた自動車のトランクに死体が! さらに浮気の現場を妻に見つかり…
 「妻と未亡人」の男が「人のいいバカ」とするなら,こちらは「底の浅いバカ」ですね(笑)。この作者,女性の登場人物にも手厳しいですが,男性に対しても容赦ありませんね。「僕はなにもしていない」とつぶやく男の姿は,ホント,救いようがありません。

98/05/08読了

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