仁木悦子『青い風景画』講談社文庫 1988年

 5編よりなる短編集。各編それぞれに独特の味わいがあり,なかなか楽しめました。

「青い風景画」
 私立探偵・三影潤に依頼された身辺警護。しかし彼の一瞬の油断をつかれ,依頼人の津永和佳子は殺害され…
 混沌とした事件が,あることをきっかけに,するすると解き明かされていくところは,なかなか小気味よいです。細かい伏線もにやりとさせられます。それにしても,この作者,フェアとアンフェアのぎりぎりの線を行くあたり,けっこう人が悪いですね(笑)。
「まぼろしの夏」
 久しぶりに亡父の実家を訪れた“僕”は,蔵の中で父の日記を発見する。そこに書かれていたのは迷宮入りした殺人事件…
 40年以上前に起こった殺人事件を,少ない手がかりをもとに推理していく主人公たちの姿には,なにやらすがすがしい感じがあふれています。文中に埋め込まれた伏線も光っており,本作品集では一番楽しめました。
「光った眼」
 デパートで知り合いのおばさんの万引きを目撃した“僕”。その場面をカメラで写した男がおり…
 子どもを主人公にした,この作者,お得意のパターンです。ネタは途中で見当つきますが,クライマックスが,「あ,なるほど」と思わせ,またサスペンスにあふれ,楽しめます。
「偽りの石」
 子どもが拾ったダイヤモンドの指輪を交番に届ける途中,昭子は何者かに襲われ…
 日常的なさりげない行為が,トリックに巧く利用されています。また主人公昭子が,だんだん「しぶとく」(笑)なっていくところがいいですね。
「遮断機が下りる時」
 鉄道への投身自殺をしようとしたピアニスト・長束賢は,はからずも自殺未遂の女を救うことになり…
 この作品も伏線がさりげなく引かれていますが,ちょっと説得力に乏しいような気がしないでもありません。ただ設定が凝っていて,そういう面では楽しめました。

98/01/10読了

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