泡坂妻夫『雨女』光文社文庫 1997年

 6編よりなる短編集です。前3編は「T」,後3編は「U」となっていて,それぞれ作風が異なります。「T」にはエロチックな雰囲気の作品が集められ,「U」はスラップスティック色の強い本格物です。

「雨女」
 雨の日になると見かける「雨女」,向津刑事の妻は彼女をそう名づけた。その「雨女」そっくりの女の夫が首吊り自殺をした。が,その自殺には不審な点があり…
 病身の夫はなぜ妻に若い男との情事を奨めたのか,をめぐる謎です。男女のあいだの心の機微を描く,とでもいうのでしょうか。どうも根が野暮天なせいか,この手の作風は苦手です(笑)。なんだかこの亭主,いやな感じです。こういうタイプが誠実そうでいて,一番人を傷つけるんじゃないでしょうか。
「蘭の女」
 友人から頼まれ,3日間,ある女と過ごす約束をした男は,そこで不思議な体験をし…
 ミステリというよりホラー,でも恐怖はともなわないので,ホラーというより「奇妙な話」といった感じの作品です。ネタばれになるのであまり書けませんが,こういう話ってよくいろいろな本で見ますね。ほんとにあるのかな?
「三人目の女」
 清純派女優のヌード写真が雑誌に掲載。しかしそれが別人と判明。雑誌記者・米原は,その「別人」と接触する機会を得て…
 「世の中にはそっくりな人間が3人はいる」というお話。「3人目は誰か」という謎の結末は,ひねりがくわえられてます。ありがちといえばありがちですが・・・。
「ぼくたちの太陽」
 お気楽3人組が旅の途中で出会った女性。別れた後,新聞には彼女が事故死したという記事。ところが,事故現場から遠く離れた“ぼくたち”の前に彼女の死体が現れ…
 スラプスティックなんだから,と言われればそれまでですが,なんだかゴチャゴチャしていて,ちょっと読みにくいです。最初の死体出現の謎は,伏線見え見えで見当つきますが,その後の死体移動の謎は,スラプスティックそのものが伏線になっていて,なかなか楽しめました。
「危険なステーキ」
 ハイジャック事件で騒然とする中,ステーキ店の従業員が刺殺され…
 これも前半がゴチャゴチャして,冗長な感じもしますが,後半の推理の部分はすっきりしていて,「なるほど」と感心しました。探偵役の「斧刑事」は,どこか「亜愛一郎」を彷彿させます。本作品集では一番楽しめました。
「凶手の影」
 鮨屋から,貯め込んだ小銭を盗もうとした男。ところが,盗みにはいった先でとんでもない事件に巻き込まれ…
 話の展開がスピーディで,おまけに二転三転していくので,「なんだなんだ」と思っているうちに,クライマックスへ。「××の隠し場所」など,ちょっと強引なところがないわけではありませんが,結末では,それまでの伏線が巧い具合に結びつけられます。少々(?)猟奇的ではありますが,トリックの使い方も自然に思えます。

 最近,泡坂妻夫づいているなあ・・・・。

97/07/30読了

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