岡嶋二人『開けっぱなしの密室』講談社文庫 1987年

 6編よりなる短編集です。発表年は1982年から83年にかけて,つまり江戸川乱歩賞をとった直後に書かれたものです。新保博久の解説によれば,作者(たち)の最初の短編集のようです。『おかしな二人』を読んだ後に,乱歩賞直後の短編集を読むと,なにやら不思議な感慨のようなものがあります。

「罠の中の七面鳥」 
 競馬につぎ込み,会社から600万円を横領した男と,昼はさえないOL,夜はホステスというふたつの顔をもつ女が出会う。男は横領を隠すために,ある計画を思いつくが・・・。「独白」と「会話」のみからなる作品です。最後の「落ち」は,七面鳥よりも,もうひとつの「理由」のほうが,説得力がありました。
「サイドシートに赤いリボン」
 友人宅を訪ねようとした男が,途中でひったくり犯をつかまえる。被害者の女は姿を消し,そのバッグから友人が書いた遺書が出てくる。友人はそのときすでに,ひき逃げを苦にして自殺していた・・・。途中でネタは推測できます。文庫本50ページは長すぎませんかねえ。
「危険がレモンパイ」
 大学生たちが映画の撮影中,スタッフのひとりがビルから転落死した。落ちた男の顔一面にはレモンパイがこびりついていた・・・。落ちが二転三転して,けっこう面白かったです。ただ登場人物がカリカチュウアされすぎているのではないでしょうか。ところでタイトルは,わたしは「不思議なピーチパイ」のパロディだと思ったのですが。
「がんじがらめ」
 金の無心にいくと,姉が自殺していた。しかし自殺では保険金はおりない。男は他殺に偽装しようとするが・・・。自殺を他殺に見せかけようとする男の視点に立って,男の焦りや苦悩がめんめんとつづられます。落ちは見当つきますが,電話のところが「なるほど」と思いました。
「火をつけて,気をつけて」
 伯父に無心にいって断られた男が,帰りがてら連続放火魔を目撃。翌日,ある男のところに一通の脅迫状が・・・。この作品も,ひねりが効いていて楽しめました。コンパクトにまとまっているのもよかったです。
「開けっぱなしの密室」
 不在中に誰かが部屋に忍び込んでいる。それを大家だと思った夏美は,友人の悦子とともに「大家迎撃作戦」をたくらむが,夏美が何者かに殺害されてしまう。そして現場は奇妙な密室状況であった。「なぜ密室なのに鍵がかかっていなかったのか?」という謎に対して,最初は正攻法で攻め,それがひっくり返って結末を迎える,という点,面白く読めました。

97/04/12読了

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