小池真理子『会いたかった人』ノン・ポシェット 1991年

 6編をおさめた短編集です。

「会いたかった人」
 心理学者の諸井小夜子は,出演したテレビ番組で,25年前に別れたきりの親友・結城良美の思い出を語ったところ,彼女から電話をもらい…
 「久しぶりに再開した友人は,すっかり変わっていて(あるいはすっかり狂っていて)」といったパターンの(よくある)サスペンスかと思いきや,途中でもうひとひねり・・・,う〜む,これは怖い。はるか昔に蒔かれていた種が,蒔いた本人さえ忘れた頃,ゆっくりと,そして毒々しい色合いの花を咲かせる,そんなイメージがありますね。
「結婚式の客」
 結婚式で見かけた謎の老婆。彼女は,5年前に自殺した恋人の母親なのか…
 プレイ・ボーイの哀れな末路,といった作品です。人間,後ろめたいところがあると,よけい,攻撃的になるものなのでしょうね。それにしても「普通の女」ってなに?
「寄生虫」
 最初はそんなことはなかった。しかし,良江は,しだいに娘の結婚相手に嫌悪を感じはじめ…
 男親が,娘の結婚相手に敵意を感じるという話はよく聞きますが,これはその母親ヴァージョン。娘の夫を「寄生虫」呼ばわりする感覚がすごいですね。
「木陰の墓」
 ある夜,純一は,隣人が,庭になにかを埋めている光景を目撃し…
 いったい埋められているのは,犬の死体なのか,人間の死体なのか? ラスト直前まで,そのどちらかがはっきりせず,緊張感あふれる作品です。そしてショッキングなラスト。本作品集で一番楽しめました。
「運の問題」
 大学教授の工藤徹男。彼には人には知られない秘かな楽しみがあった。が,それを見つかったことから…
 うう,なんちゅう哀しい物語なのでしょう。ほんと,この作者は,情け容赦がありませんね。主人公に同情してしまいます。
「甘いキスの果て」
 7年間の愛人生活に終止符を打つため,別れを告げた女に,男は200万円払え,と言い…
 ストーリィ自体は,ちょっと「作りすぎ」という感じがしないでもありませんが,男のエゴ,わがまま,情けなさがじつに巧く描き出されていて,主人公(女)に思いっきり感情移入できました。

98/05/25読了

go back to "Novel's Room"