阿刀田高ほか『七つの怖い扉』新潮文庫 2002年

 タイトル通り,7人の作家さんによるホラー・アンソロジィです。巻末の(おそらく)編集部の注によれば,女優の白石加代子の語り下ろし公演「百物語」の新作「七つの怖い扉」のために書き下ろされた作品群とのこと。そのせいでしょうか,どこか「語り」を意識したような物語が多いように思えます(<先入観?^^;;)

阿刀田高「迷路」
 庭にある古井戸。そこに落ちた者の死体はいつも消えてしまい…
 主人公のおつむが少々「薄ぼんやり」しているという設定で,古井戸から死体が消えてしまう奇怪さを,じわりじわりと描き出しています。その上で,最後の一文によって,その奇怪さ,不気味さを一気にひっくり返してしまうところは,やはり短編の巧手であるこの作家さんならでは技量といえましょう。ただタイトルがいまひとつ不分明……
宮部みゆき「布団部屋」
 死んだ姉の代わりに“兼子屋”に奉公にあがったおゆうが見たものは…
 物語の骨格は,「因果応報」「祟り」を素材とした,オーソドクスなこてこての怪談なのですが,登場するモンスタの設定や,そのモンスタに女が取り憑かれた理由などに,現代風味が漂っているところが,この作者の持ち味なのでしょう。
高橋克彦「母の死んだ家」
 山中で迷った“私”と編集者がたどり着いたのは,かつて母が自殺した別荘だった…
 作家さんのプロフィールにはあまり関心はないのですが,この作者にとって,「母親」,より直裁に言えば「母親の死」というモチーフは,特別なもののように思えます。荒れ果てた別荘で主人公が幻視するシーンは迫力があります(この部分をオーラルで上手に表現できたら,すごく効果的だと思います)。ただラストの処理がちと唐突な感が否めません。伏線がほしいですね。
乃南アサ「夕がすみ」
 事故で死んだ叔母夫婦の娘・かすみを,“私”の家に引き取ることになったが…
 いわゆる「魔性の少女」ものです。主人公の祖母や兄が,引き取られた少女かすみに反感を持つのですが,その反感の内容が,ラストで明かされる少女の「魔性」と,どうも巧く結びついていない感じがします。そのため魔性の不気味さを醸し出すのに活きていないというか……
鈴木光司「空に浮かぶ棺」
 彼女が目覚めたのはビルの屋上だった。そして彼女は妊娠していた…
 『リング』の番外編です。もともと『リング』は,「呪い」が,さながらウィルスのごとく「感染」「伝染」する怖さが描かれていましたが,本編では,「呪い」による「妊娠」という,「生き物的」なグロテスクさがエスカレートしてますね。でも『リング』未読の読者にとっては,ちょっと不親切な短編です。
夢枕獏「安義橋の鬼,人を喰らふ語(こと)」
 人食いの鬼が出るという安義橋へ向かった男は…
 『今昔物語』の巻27に出てくる同名タイトルの説話の翻案です。そこに周囲の人間の企みを絡ませることで,話を膨らませるとともに,ミステリアスな展開にしています。とくにラスト,主人公を襲う鬼は,原作ではぽっと出のキャラなのですが,それを物語の冒頭から登場する人物に置き換えているところは,お話としてのまとまりを良くしています。
小池真理子「康介の背中」
 呼び出されて訪れた料亭の一室で,彼女は4年前に死んだ恋人の後ろ姿を見る…
 まず怪異を登場させておき,そこから主人公と怪異との関係を少しずつ小出しにしていくところは,常套的な展開といえましょう。その上で最後にショッキングなシーンを持ち出すところもオーソドクスな体裁です。最後のシーン,主人公が見たものとは,妻子に食い荒らされてしまった恋人の無惨な姿だったのかもしれません。

02/01/03読了

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