我孫子武丸・田中啓文・牧野修『三人のゴーストハンター 国枝特殊警備ファイル』集英社文庫 2003年

 国枝特殊警備保障(有)……通常の警備会社では手に負えない「特殊」な事象−つまりは怪異現象に対処するための警備会社。洞蛙坊・比嘉薫・山形匡彦…3人のゴーストハンターは,それぞれ独自の手法で事件を解決していくが,彼らには共有する過去があった。4年前の“人喰い屋敷”をめぐるおぞましい過去が…

 「ゴーストハンター」という,怪奇小説では古典的なフォーマットに基づきながら,国枝特殊警備保障(有)という設定を共有した,3人の作家さんによる競作集です。
 おそらくそういった体裁を前提としているせいでしょう,各作家さんが,それぞれの持ち味(あるいはこれまでの作品から読者がイメージする「作風」)を,かなり意図的に前面に押し出しているように思えます。

 まずは田中啓文。ある意味,もっともオーソドクスなゴーストハンター的な結構を持った諸編は,まさに「啓文節」が堪能できます。主人公の洞蛙坊は,「邪悪な力に対抗するためには邪悪でなければならない」と言い放つ,絵に描いたような生臭坊主です。で,それゆえに,悪霊に対抗する「技」の数々はお下劣パワー全開です(笑) 「File1 熱キ血汐ニ……」では,「ババ囲い」という結界が登場しますが,もうとにかく紙面から「臭い」が立ち上りそうなすさまじさ(たしかに強い臭いに避邪的な要素はあるとはいえ^^::),はたまた「File4 常世の水槽」での「やぐら」も,男性読者ならば,涙が出そうなほどの痛ましさです(笑) しかしその一方「File7 血まみれの貴婦人」で見せた「悪霊の蘇りの手法」は,ミステリ的なトリッキーさを併せ持っていて,楽しめました。
 ついで牧野修の作品では,「悪霊」とは,人間の産み出した「妄想」「欲望」が実体化したものと設定され,主人公比嘉薫は,それをみずからの「妄想」に取り込むことで,事件を収束させるという,これまたこの作者らしいテイストを持っています。しかしそれゆえに,単独作品−「File2 獣日和」「File5 鳥迷宮」など−は,ややパターン化してしまっている観がありますが,むしろ本領が発揮されるのはエンディングでしょう。妄想と現実とが相互に浸潤し,そこから怪異が発生,さらには妄想が現実を凌駕することで,現実なるものが崩壊していく恐怖を描くのを得意とする作家さんならではの幕の引き方だと思います。
 そして,どうやら今回の企画の発起人らしい我孫子武丸「File3 楕円形の墓標」では,インテリジェントビルで起こる幽霊譚を,「File6 呪われた偶像」では,かつてのデュオ・グループを襲った無惨な事故を,また「File9 ハネムーン・スイート」では,高級ホテルで発生した人体発火現象を,超常現象をまったく信用しない科学者山形匡彦が,合理的に解決していくという展開は,ミステリ作家としての「顔」が色濃く出ています。また,諸編に隠されたミステリ作家らしい「仕掛け」は,途中でうすうす見当がつき,ラストでも「やっぱり」という感じでしたが,しかし,そうすることによって,この競作集の終幕をじつにきれいに飾っている点は,この作家さんのストーリィ・テリングの力量としてやはり評価すべきでしょう。

 この手の「リレー小説」的な性格を持った競作集は,「企画倒れ」としか呼べないような作品がけっこうあります。それは,個性豊かな作家さんが競作するゆえに生じやすい各編の不整合性と,それをこじつけてエンディングとする不自然さによる場合が多いと思います。本編は,「マルチエンディング」という「開き直り」(笑)でもって,その困難さをあっさり放棄することで解決していると言えましょう。

03/10/05読了

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