泡坂妻夫『11枚のトランプ』角川文庫 1979年

 真敷市公民館創立20周年記念ショウに出演したアマチュア奇術クラブ“マジキ・クラブ”。すったもんだのすえ,ショウはフィナーレへ。ところが,最後に登場するはずの水田志摩子が突如行方不明に! そして彼女は自分のアパートで死体で発見される。死体の周囲には,奇妙な品物が壊され,並べられていた。それらは,マジキ・クラブの会長格・鹿川舜平が自費出版したカード奇術小説集『11枚のトランプ』の中で用いられていた奇術の小道具だった・・・。

 泡坂妻夫の最初の長編です。『乱れからくり』が長編第1作と思っていましたが,こちらが先だったんですね。あいかわらず思いこみがひどいですね,わたしは(笑)。
 さて,マジック好きの作者の趣味が,思う存分発揮されたような作品です。登場人物もすべて(素人ながら)マジシャンですし,舞台もマジック・ショウと世界国際奇術家会議(「世界」と「国際」が両方つけられるのはちょっと変ですね(笑))。また奇術をめぐってさまざまなうんちくがかたむけられます。それらが重要な伏線になっているあたり,やはり巧いですね,この作者。

 物語は3部構成で,第1部は,マジック・ショウを舞台に,登場人物の失踪,奇妙な殺害現場,ダイイング・メッセージと思われる被害者の不可解な行動,と,「これでもか」という感じで,謎が散りばめられます。ただそこにいたるまでの展開が,スラプスティック風なのはいいのですが,しょうしょう冗長なところがあるように思います。
 第2部は,作中作『11枚のとらんぷ』です。マジックのトリックをネタにしたショート・ミステリ11編がおさめられています。1編1編がコンパクトにまとまっていて,独立してもけっこう楽しめます。こういった作中作は,読者に対する仕掛けになっていることが往々にしてありますので,気が抜けません(笑)。この作品の場合,「仕掛け」というより「伏線」ですが・・・。
 そして第3部は,世界国際奇術家会議を舞台に「解決編」です。探偵役が,矛盾点などを手がかりとしながら,きちんきちんと推理を展開していくプロセスは,読んでいてすっきりします。ただ殺害の動機はともかく,その後の行動,つまり『11枚のとらんぷ』の小道具を壊したことの動機は,ちょっと妄想的すぎませんかねえ? そこらへんが物足りなかったです。

 凝った構成とバリバリ(死語)の本格ミステリが楽しめる作品だと思います。『乱れからくり』も再読したくなりました(笑)。

97/08/24読了

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