村上春樹・安西水丸『夜のくもざる』新潮文庫 1998年
村上&安西コンビによる「村上朝日堂」の今回の趣向は,「超短編小説集」です。
で,のっけから文句で恐縮なのですが,「短編より短い小説」には「掌編」という美しい言葉があるのに,なんで「超短編」なんて即物的で平板な単語を使うのでしょうかねぇ。最近の「超○○」という言葉の使い方を見ると,「象さんはどれくらい大きいの?」と訊かれた子どもが「とっても,とっても,とぉぉぉっても大きいの!」と答えているような,幼稚さと語彙の貧困さが感じられてしまうのです。う〜む,馴染めないなぁ・・・・。
さてそれはともかく,「ワン・アイディア・ストーリィ」とでも言うのでしょうか,3〜4ページの(それも行間をたっぷりとった)「超短編」36編がおさめられています。いやむしろ「ストーリィ」というより,「ワン・シーン」「ワン・シチュエーション」といったところでしょうか。変な話,奇妙な話,なんてことはない話,不気味な話,ユーモアのある話,暖かな話,小咄みたいな話,だからどうしたという話(笑),いろいろなテイストが味わえます。またヴァラエティに富んだ「語り口」も楽しめます。
気に入った作品にコメントしますが,いずれもきわめて短いので「あらすじ」は省略します。内容にあわせてコメントも短めに。
「フリオ・イグレシアス」
きっと“海亀”と“私たち”の間には壮大な闘争劇があるのでしょう。その一場面です(笑)。一晩中,フリオ・イグレシアスのレコードを聴くのはわたしにとっても苦痛でしょう。
「新聞」
こんな大猿がいたら,たしかに傍迷惑ですね。大仰な文体が苦笑させられます。
「タコ」
間違い電話,間違いEメールというのはありますが,間違い手紙,というのはあまり見かけませんね。
「スパナ」
いつもスパナを持ち歩いている女性というイメージが,なんとも怖いです。男性の皆さん,鎖骨にご注意を・・・。
「バンコック・サプライズ」
目的の電話番号の相手が出ないからといって,その1番違いの相手に電話をするという発想が凄いです。たしかに「お隣さん」ではありますが。
「ことわざ」
爆笑!
「構造主義」
こういった「ないないづくし」の手紙というのを受け取った方は,かなり戸惑うでしょうね。
「大根おろし」
なぜに拷問室にトム・ジョーンズとアバのレコードが? きっと作者にとっては拷問の重要なアイテムなのでしょうね。
「留守番電話」
いくら嫌いだからって,相手も仕事なんだから仕方ないでしょう,それにつきあってみれば気のいいヤツかもしれないからさ,というお話。
「インド屋さん」
「インド」と「バリ」が張り合う・・・。そんな時代もありましたね。
「天井裏」
不条理ホラー風味です。天井裏に住む「なおみちゃん」も怖いですが,ラストも「ひやり」としていいですね。
「激しい雨が降ろうとしている」
う〜む,プロの作家は凄い(皮肉ではなく)。
「夜中の汽笛について,あるいは物語の効用について」
たしかに真夜中に突然目覚めたときというのは,底知れぬ孤独感を感じるものです。そのとき,なにか人の活動を思わせる音が聞こえたとき,ホッとしますね。暖かな話ですが,こんなことしゃべる男がそばにいたら,きっと殴りつけたくなります(笑)。
98/03/07読了
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