藤原伊織『テロリストのパラソル』講談社文庫 1998年

「私たちは世代で生きてきたんじゃない。個人で生きてきたんだ。」(本書より)

 22年前,爆弾事件で指名手配された“私”は,名を変え,アル中のバーテンとして日々を送っていた。しかし新宿中央公園で爆弾事件が発生! 偶然居合わせた“私”をふたたび警察が追う。さらに死者の中に全共闘時代の友人ふたりの名前が含まれていた。ふたりの死は偶然なのか? “私”は爆弾事件の真相を突き止めるべく,単独調査を開始する・・・。

 第41回江戸川乱歩賞と第114回直木賞をダブル受賞した作品です。同一作品で両賞を受賞したのは,この作品が(いまのところ)唯一だそうです。
 さすが両賞を受賞した作品だけあって,さくさく読んでいけます。とくにオープニング,指紋を残したままのウィスキィの瓶を置いてきてしまうことが,主人公を事件の渦中に巻き込む重要なきっかけになるのですが,その直前に出会った少女とのエピソードに絡め,「お,巧いな」と思いました。そしてヤクザの“忠告”と“警告”,20年前に姿を消した女性の娘の登場,娘から告げられる母親の死,そしてかつての友人の死を告げるニュース・・・と,ストーリィの展開はスピーディです。
 さらに主人公の前に散りばめられるさまざまな謎。新宿中央公園の爆弾テロの目的はなんなのか? “私”のかつての友人がそれに巻き込まれ死亡したのは偶然なのか? 主人公を襲うヤクザの目的はなんなのか? ヤクザと爆弾テロはどのように結びつくのか? などなど,謎は錯綜し,また,多彩な登場人物たちの関係もまた混迷し,複雑に絡み合ってきます。主人公自身,指名手配の容疑者として警察に追われる身であるという設定も合わせて,サスペンスフルに物語は進行していきます。
 そして主人公と“真犯人”の対決でクライマックスを迎えます。この作品の唯一の不満点は,このクライマックスなんですね,じつは。“真犯人”との対決によってすべての謎が解かれるのですが,「をを!」 と感心する部分がある反面,「なんでそんなことするの?」という思いも一方で残ってしまいました。まあ,「そんなことする」経緯をいろいろと“真犯人”は“私”に喋るわけですが,あまりに大仰すぎる,で,大仰すぎるわりには,よくよく考えてみれば,けっこうせこかったりする,そんな感じです。う〜む,やっぱり「世代の違い」なのでしょうか? まあ,でも,そんな“真犯人”に対する“私”の解答が,冒頭の文章なわけで,そこらへんは「ストン」と着地しているな,というところでしょう。
 そういったちょっと不満に残る部分があるものの,トータルに見れば楽しめた作品でした。

98/08/03読了

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