パット・マガー『探偵を捜せ!』創元推理文庫 1961年

 冬のある夜,コロラド山中のホテルで,美貌の若妻マーゴットは,莫大な財産を手に入れるため老いた夫を殺害する。ところが,夫はすでに妻の心を読み,事前に探偵に調査を依頼していた。そしてホテルを訪れる4人の男女。彼らの中に夫が依頼した探偵がいる! マーゴットは探偵を捜し出すため調査を始めるが・・・。

 「探偵が犯人を捜す」ではなく,「犯人が探偵を捜す」というトリッキィな設定で著名な古典的作品です(この作者には『被害者を捜せ!』なんていうのもあります)。盆休みで実家に帰って,古い本棚から見つけだした再読作品です(なんか,去年もこんなことあったな・・・^^;;;)。

 本書のおもしろさはふたつあるのではないかと思います。ひとつは,夫を殺害したマーゴットが,さまざまな手段を使って,探偵を捜し出そうとする,一種のクライム・ノベル的なおもしろさです。彼女は,4人の客たちの会話や態度を観察していきます。「探偵でなくては知っているはずのないことを話しているのは誰か?」「彼らの持ち物に探偵であることを示すものは含まれていないか?」などなど。それとともに,犯罪を犯したもの特有の疑心暗鬼に囚われ,さながら「重箱の隅をつつく」ような疑惑に翻弄されていきます。そして殺害を繰り返すうちに鈍磨する良心と,何重にも重ねていく自己欺瞞。破滅へとひた走る彼女の姿は,繰り返しの多い,少々くどい文体でげんなりするところもありますが,なかなかサンスペンスフルです。とくにある人物に対して(「お前が犯人だ!」ではなく)「おまえが探偵だ!」と迫るところは,鬼気迫るものがあります。

 もうひとつのおもしろさは,本格ミステリ的なおもしろさです。マーゴットの眼を通じての描写は,一見,彼女に都合のいいように描かれながら,ところどころに“真相(=探偵は誰か?)”にいたるための伏線が引かれていたことが,ラストになって明らかにされます。とくに彼女が真相に気づくシーンは「なるほど」と感心しました。また彼女が陥る疑心暗鬼の“正体”も,最後にすっきり解き明かされます。ちょっと「アンフェアかな?」と思われるところもないではありませんが,それなりにきれいに着地します。

 多少,トリッキィな設定が先行してしまっている点もありますが,クライム・ノベルとしても,本格ミステリとしても楽しめる「一粒で二度美味しい」作品でしょう。

98/09/13読了

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