シャーリン・マクラム『丘をさまよう女』ハヤカワ文庫 1996年

 物語は複数の人物の行動を追いつつ進行します。ひとつは,25年前,殺人で服役中の老囚人が脱獄,彼は脳の障害のため,過去と現在の区別がつかなくなっています。そのニュースを流した地元ラジオ局のDJ「北部者のハンク」ことヘンリーは,彼の過去を探るため,調査を始めます。一方,保安官事務所で通信係であったマーサは,みずから志願して保安官助手となり,脱獄事件を気にかけつつ,さまざまなトラブルに直面します。さらに,200年前,この土地からアメリカインディアンに誘拐され,40日をかけて自分の村に帰り着いたケイティ・ワイラーの足跡をたどるべく,民族歴史学者・ジェレミーは,単独,この土地の原生林の踏査に挑みます。彼らのそれぞれの行動はときに重なりあり,ときに離れ,結末へ向けて,収束していきます。

 上のあらすじを読んでいただいてもわかりますように,なにやら,やたらとごちゃごちゃした物語です。脱獄事件はもちろん最初から描かれていますが,それにともなって派生する事件が,物語の後半になってようやく出てくるため,そこに行き着くまでに,少々(かなり?)だれ気味です。その間,高校生の車の暴走・自殺事件やら,マーサと同じ保安官助手のジョーとの恋愛関係やらが,めんめんと描かれています。登場人物の日常生活を描くことで,リアリティをもたせるのはひとつの手法でしょうが,なにかそちらの方にかまけていて,メインストーリーがかえっておろそかになっている感じで,読んでいてストーリーを追うのがしんどく,退屈してしまいます。

 複数のストーリーがそれぞれ独立して進行し,それらがニアミスを繰り返しながら,終局へと流れ込んでいく,という構成は,サスペンス小説の常套手段ではありますが,その終局にいたる必然性,関係のない人物や事件が交錯し,共鳴しあってクライマックを迎えるまでの必然性がないと,どうしてもご都合主義の印象は免れません。とくにジェレミーの行動は,ストーリーに本当に必要だったのか,疑問です。第一,「丘をさまよう女」=ケイティの存在と,それを幻視するノラの役割は結局なんだったんだ? と思わざるをえません。結局,不要なサイドストーリー(?)が多すぎて,物語全体の緊張感をそぎ,冗長になってしまっています。

97/03/15読了

go back to "Novel's Room"