みなもと太郎『お楽しみはこれもなのじゃ』河出文庫 1997年

 この本の冒頭にも書いてありますように,『キネマ旬報』に連載されていた,和田誠著『映画の名セリフ お楽しみはこれからだ』のパロディで,こちらは『マンガ少年』に連載された,マンガの名セリフを集めたエッセイ集です。

 『COM』を知らない世代のわたしにとって,手塚治虫の『火の鳥』との出会いは,『マンガ少年』の別冊でした。その『マンガ少年』に毎号,妙に白っぽいページで,下の方になにやら文章がつらつらと並んでいる連載がありました。当時,マンガ雑誌は立ち読みで済ましていたわたしにとって,その連載は眼中になく,いつも飛ばして読んでいました。それが本書なのですが,題名だけはなぜか記憶に残っていて,このたび文庫化されたのを機に,読んでみました。

 連載は1976年から79年にかけてで,ちょうどわたしが,ワンパターンの少年マンガに飽き(とくにいわゆる「スポ根もの」に対する強烈なアレルギー!),おそるおそる少女マンガや青年マンガに手を出し始めた頃でした。ですから,本書で紹介されている萩尾望都,大島弓子,樹村みのり,清原なつのなどといった少女マンガ家たちや,山上たつひこ,さいとうたかを,白土三平,吾妻ひでおなどといった,一癖ある少年マンガ家や青年マンガ家たちは,ひどくなつかしく,また馴染み深いものでした。ただし,作者の年齢にもよるのでしょうが,貸本漫画時代の作品もまた数多く紹介されており,そこらへんはちょっとピンときませんでした。また作者のマンガに対する考え方(たとえば「良いマンガ」みたいな言い回し)は,わたしと多少違っているところもあり,のめり込むように読む,というわけにはいきませんでしたが,それでも,作者のマンガに対する愛情,思い入れがストレートににじみ出ていて,たいへん楽しく読めました。水島新司のマンガのメインテーマは「あほ」と「貧乏」である,という指摘は,最初の水島体験が『銭っこ』であるわたしにとっては,「なるほど,やっぱりそうなんだ」と思わず膝を打ってしまうような明快な指摘でした。

 たかがマンガ,されどマンガ・・・・・

97/05/13読了

go back to "Novel's Room"