光瀬龍『オーロラの消えぬ間に』ハヤカワ文庫 1984年

 「どれもほんとうのことであり,また,すべてが仮構の物語だったのかもしれない」(本書「星への道」より)

 「大航海時代」から数百年。一時,宇宙から撤退していた人類は,ふたたび宇宙の奥へと調査船を派遣する。調査員リトルバラは,愛機“アナクレオン10”を駆って星々をめぐる。そして出会う,かつて人類が残したさまざまな「足跡」を……

 調査員リトルバラを主人公とした連作短編集。10編を収録しています。『S-Fマガジン・セレクション1981』に入っていた「雨ぞ降る」が面白かったので,ネット古本屋さんへ注文,購入しました。

 本作品の魅力は3つあるのではないかと思います。
 1つめは,主人公リトルバラが「調査員」という設定になっているため,各エピソードが,ミステリ的なテイストにあふれている点です。緊急信号を受信したり,「連合」から命令を受けて,彼女は,さまざまな惑星に降り立ちます。そこで,理由の判らない戦闘に巻き込まれたり(「遠い夕日」),突然の攻撃を受けたり(「宇宙飛行士(スペース・マン)ここに眠る」),死体で埋まった基地に遭遇したり(「雨ぞ降る」),と,いろいろなトラブルに巻き込まれます。「なぜこのような状況になったのか?」という謎が牽引力となり,ストーリィにスリルとサスペンス,スピード感を与えています。

 2つめに,この作者のSF作品に特有の「無常観」「虚無感」が挙げられます。本編は,人類が銀河系内を飛び回る時代を舞台にしていますが,それは人類による宇宙開発の「躍進期」でも「全盛期」でもありません。そんな時代から数百年が経ち,一時期撤退した人類は,ふたたび宇宙に乗り出すため,調査船を派遣する,という設定になっています。
 それゆえリトルバラが着陸する惑星の多くは,すでに人類から見捨てられた星々であり,そこで彼女が見るのは,かつての宇宙開発の「残骸」と言えます。それは人類が残したコンピュータ同士の不毛な戦いであり(「遠い夕日」),異星人が残したマシンによって無目的に再生産される「街」であったり(「日没前に発進せよ」),クローン人間が細々と生きるかつての地下都市であったりします(「星への道」)。また「月光小夜曲(ムーンライト・セレナーデ)」では,孤独な宇宙空間の中で崩壊していく人間の心を描いています。主人公をして,「宇宙開発」を,冒頭に引用した言葉で評させるような虚しさと無力感,哀しみが各編に横溢していると言えましょう。とくに表題作「オーロラの消えぬ間に」で最後に明かされる「真相」は,宇宙開発がもたらした皮肉な,しかしある意味必然的な「終末の光景」を切り取っていると言えましょう。

 3つめは主人公のキャラクタ造形です。リトルバラの,タフでアグレッシブ,ときに辛口のユーモアを口にする性格は,SF洋画,たとえば『エイリアン』シリーズのシガニー・ウィバーや,『ターミネーター2』リンダ・ハミルトンを彷彿とさせます(「雨ぞ降る」の感想文で,絵としては星野之宣を連想すると書きましたが,星野作品にもその手の女性キャラがけっこう出てきますからね)。
 そしてリトルバラには,もうひとつ「秘密」が隠されています。今でこそベテランの調査員である彼女には,自分自身思い出せない「過去」があるようです。それは「傷みの星」「日没前に発進せよ」で匂わされ,「オーロラの消えぬ間に」で明らかにされます。その設定が作品にミステリアスな雰囲気を与えています。ただこの設定の処理はやや中途半端なところがあって,もしかするとこのシリーズ,続編があるのかもしれません(ミステリものとしては「決着」を期待したいところですが)。

 ところで1点,どうしても気になったところがあります。既読の方はこちらをマウスでドラッグしてください>「宇宙飛行士(スペース・マン)ここに眠る」で,「城」に突入するリトルバラが,自分の「頭部」をはずして投げつけますよね。これってどういう意味なんでしょう? リトルバラはロボットということなのでしょうかね?)

02/02/28読了

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