森真沙子『猫まつりの夜』日文文庫 1997年

 東京郊外の高級マンション。ペットの飼い方をめぐって住人が対立。そんな矢先,ペット反対派の急先鋒,浦崎和歌子が階段から落ちて死亡した。事故? それとも他殺? そして死体の第一発見者・川島まみ子の周囲には不穏な空気が流れはじめる。真相が判明しない中,さらに婦女暴行犯が脱走,マンション付近は緊張に包まれる・・・

 学生の頃,真夜中,飲み屋から帰る途中に公園を通りすぎようとしたら,猫が数匹,街灯下のベンチの周囲にたむろしているのに出くわしたことがあります。思わず,びくりとして歩をとめた刹那,猫たちはあっという間に闇の中へ消えていきました。いま思えば,あれが猫の集会,本書でいう“猫まつり”だったのかもしれません。

 どうもストーリーの焦点がはっきりしない感じの作品です。浦崎女史の謎の死を発端として,川島まみ子の部屋のドアへのいたずら,彼女がワープロ打ちのアルバイトをしている作家石岡浩美へ届いた脅迫状めいた不穏な手紙と,サスペンス小説の定石通りにストーリーは展開します。
 そして婦女暴行犯の脱走事件と,その脱走犯の他殺体での発見。マンション建設の際に移転した“義人塚”をめぐる伝説と,地元の有力者板倉家との不可解な関係。さらにまみ子が目撃した,天才ヴァイオリニスト少女・池上りさの奇妙な行動……と,とにかくつぎからつぎへと,いろいろな事件やら疑惑やらが飛び出てきます。それとともに明かされていくマンション住人の隠れた素顔,一見華やかで幸福そうに見える家庭の奥底で渦巻く愛憎などなど。加えて,その合間合間に,まみ子と母親・義父との屈折した関係やら,浦崎健介への淡い恋心やらが描かれていきます。どこが物語のメインなのかがはっきりせず,読んでいていささか退屈でした。ラストの方で,クライマックスめいた事件が発生し,真相が明らかにされていきますが,盛り上がりに欠けますし,また,それまでの謎が収斂して解き明かされるというカタルシスにも乏しいです。やっぱり,「う〜む,なんだかなぁ」というのが最終的な感想です。まぁ,文章が比較的読みやすいですが・・・。

 ところで,本書の「日文文庫」というのは,はじめて目にしましたが,「日本文芸社」の文庫だそうです。最近,新たな文庫がやたらと刊行されていますねぇ。

97/12/23読了

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