シオドー・マシスン『名探偵群像』創元推理文庫 1961年

 歴史上の有名人10人を探偵役に配した連作短編集です。「歴史上の有名人は名探偵だった」という設定は,ミステリ作家にとって魅力的なのかもしれませんね。日本でも,聖徳太子織田信長を探偵役にしたミステリ作品があったかと思います。もっとも「名選手,必ずしも名監督にあらず」なんて言葉がありますが(笑)

「名探偵アレクサンダー大王」
 6日後に必ず死ぬ毒薬を飲まされた大王は,犯人を探す…
 「被害者=探偵」というプロットが凝っている上に,さらに輪をかけたトリッキィな真相もいいですね。矛盾する言葉を手がかりとした大王の推理も楽しめます。それにしても,大王がやった,死刑囚に毒薬を飲ませる「実験」…現代だったら人権侵害もはなはだしいですが,古代ならいいのでしょうね(笑)
「名探偵ウマル・ハイヤーム」
 暗殺者を恐れ,塔の密室に閉じこもった男が,刺殺された…
 主人公は詩人にして天文学者だそうです(イスラム圏の歴史をもっと勉強しなくちゃ(..ゞ) 密室トリックは,やや弱いものの,伝説的な暗殺団,専制君主と主人公との駆け引きなど,スリルにあふれた展開が楽しめます。
「名探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ」
 観衆の去った競技場で,ひとりの男が刺殺された…
 「見えない犯人」テーマの作品。トリックは,ちょっと物足りないところ(「嘘」が絡むあたり)がありますが,むしろレオナルドが真相にたどり着く伏線の妙が味わえる作品です。ラストの「苦い余韻」もグッド。
「名探偵エルナンド・コルテス」
 演説中のメキシコ皇帝が,投石によって殺された…
 このおっさん,そうとうえげつないことをやっていますからねぇ…作者の視線も,そのあたり,バランス感覚とアイロニィに満ちています。殺害方法における二重三重のミス・リーディングが巧いですね。
「名探偵ドン・ミゲール・デ・セルバンテス」
 路上で刺された男が,死ぬ直前に犯人として名指ししたのはミゲールだった…
 本編のポイントは,犯人に疑われた探偵役が,『ドン・キホーテ』の作者である点でしょう。スラプスティク風味を織り交ぜた,テンポのよい作品となっています。ただ,トリックが時代性に負ってしまっているので,そこらへんがちょっと難。
「名探偵ダニエル・デフォー」
 政敵に狙われるデフォーと間違えて殺された男とは…
 ほんのわずかなきっかけで,それまでのストーリィを逆転させる展開は鮮やかです。その上でのオチも巧いですね。このシリーズの特徴である「推理のきっかけのおもしろさ」がよく現れている作品です。
「名探偵クック艦長」
 船員が刺殺され,その死体が消えた…
 人間性の洞察を基にしたクック艦長の推理(と実験)のプロセスがユニークですね。そしてそれがけっしてペンダントリでなく,結末にスムーズに結びつけています。
「名探偵ダニエル・ブーン」
 開拓民の村でつぎつぎと起こる殺人事件…犯人はインディアンなのか…
 今だったら違う描き方(あるいは,違う翻訳)になっていたでしょうね(「土人」はちょっとまずかろう^^;; 「逆賊」というのも引っかかりますし…) 歴史ミステリの利点のひとつは,科学捜査を導入する必要がないことで,それを上手にトリックに盛り込んでいます。
「名探偵スタンレー,リヴィングストン」
 リヴィングストンを殺そうとする,その意図と犯人は…
 この作品のトリックには,ちょっと首をかしげてしまいますね。ましてや主人公が,ともにアフリカ大陸の探検で有名なふたりの人物ですから,気づかないのは不自然に思えてなりません。
「名探偵フローレンス・ナイチンゲール」
 クリミア行きを邪魔する“偶像破壊者”の正体は?
 主人公vs犯人という,ストレートなストーリィ展開になりそうなところに,ひとつふたつと“小技”を挿入することで,メリハリをつけています。作中のナイチンゲールがちょっとイメージ違うな,と思って調べてみました↓ これはこれで立派な方です。
http://www.washimo.jp/Report/Mag-Nightingale.htm

04/12/06読了

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