真崎かや『声を聞かせて』EXノベルス 2001年

 「ENIXエンターテインメントホラー大賞」というのがあるそうです(知らなかった^^;;)。その「短編小説部門優秀賞」を受賞された作家さんによる8編を収録した処女短編集です(受賞作は表題作なのかな? そこらへんの書誌情報がない(T_T))。
 フェイス・マークは「(~-^)」ですが,「もう少し工夫すれば」「あともうひとひねり」と思わせる作品がけっこうあって,ポテンシャルのある作家さんだと思います。今後の活躍が楽しみです。
 ところでカヴァ作画は藤田新策。描かれたネオンサインの文字が「KING」となっているのは,S・キングのカヴァで有名なこの方の茶目っ気なんでしょうかね(笑)

「声を聞かせて」
 合コンで知り合った女性から電話をもらった“俺”は…
 「ケータイ・ストーカー」という着想がおもしろいですね。たしかに「いつでも,どこでも」という携帯電話の特性は,こういったホラー的展開にじつによくマッチングしています。着眼点の勝利と言えましょう。オチはオーソドクスな「憑依ネタ」かなとも思いきや,それを裏切る(?)シュールなエンディングもグッド。本集中,一番楽しめました。
「偽りのイヴ」
 誰にも見えない「明生」。彼は“私”の心の闇の代弁者だった…
 う〜む…素材も展開もいまひとつです。でも主人公の苦悩がせつせつと伝わってくるところと,最後の心地よい解放がよいですね。
「君と手をつないで」
 高橋は“あたし”の目の前で線路に落ち…
 ネタ的にはけっして目新しいものでなく,また展開も予想できるところもあるのですが,高橋に対する主人公の少女の心の揺れ動きがじつに上手に描写されていますね。また「手」を使っての「告白」シーンがほのぼのしています。それにしても主人公の陰口を言う少女たち…その悪意が怖い^^;;
「道を逝く人」
 「その道」ですれ違った人は,翌日に必ず死ぬ…
 大モトになっているネタが,ユニークな発想で好きですね。幻想味あふれる映像性も好みです。ただ展開のさせ方としては,やっぱりこれしかなかったのでしょうかね? 無駄な描写も気にかかります。
「夢の行き先」
 何度も見る夢……それは刑場のようなところで首を斬られる夢だった…
 繰り返し見る夢,前世の因縁,若い男女,と,手垢がつきまくっている素材ながら,それらを踏襲しつつ,ラストで意外な方向に転回させている点が楽しめます。フェイド・アウトするようなファジィな幕引きも余韻を残していていいですね。
「眠れぬ森の魔女」
 “私”の恋人は,ぜんぜん眠らない人だった…
 なんとも突飛なシチュエーションなのですが,そのせいで,しだいしだいに蝕まれていく主人公の心理描写が巧いですね。たしかにこんな恋人を持ったら,疑心暗鬼に取り憑かれるでしょう。また「描かれざる結末」が不気味さを醸し出しています。
「花の命」
 ダンディな夫に若く美しい妻。理想的に見えた夫婦の秘密は…
 前半の展開はやや陳腐な感が否めませんが,ラストの処理は「お!」と思わせます。ただ両者の結び付け方に伏線のひとつもほしいところです。
「愛しのトーキングベア」
 もうすぐ母親になるのに幼さの抜けない妻が買ってきたのは,喋る熊の人形だった…
 ブラック・ファンタジィのような作品なのですが,エンディングでの,主人公の切羽詰まったような饒舌さに触れるとき,もしかするとこれは,主人公の狂気が紡ぎだした悪夢なのかもしれない,と思わせます。

01/08/23読了

go back to "Novel's Room"