森雅裕『いつまでも折にふれて・さらば6弦の天使』KKベストセラーズ 1999年

 「森雅裕 幻コレクション」の第4弾は,まさに幻中の幻,私家版の作品と書き下ろしのその続編です。

「いつまでも折にふれて」
 ミステリアスな人気ロック・バンド“HERGA”。そのメンバのひとりが大財閥の跡取りだという。そして彼らのレコーディング・スタジオで発見された死体。事故なのか,他殺なのか? “HERGA”のメイン・ヴォーカル錺泉深(かざりいずみ)は,事件に巻き込まれていく…
 カヴァの作者紹介によれば,この作者自身が“HERGA”という「不定期バンド」のキーボード&ギター担当だそうです。だからでしょうか,音楽や音楽活動に対する愛情が伝わってくるように思います。たしかに殺人事件が起き,その真相は?という,ミステリ作品ではあるわけですが,それ以上に「音楽小説」といった感触が強く感じられます(ミステリとしてつまらない,というわけではありませんよ)。とくに主人公錺泉深と“HERGA”のメンバのキャラクタ造形がユニークで生き生きとしています。ところどころ挿入される音楽業界の専門用語やスラングに満ちた会話も,その内容を理解云々するといったことより,「ギョーカイ」の雰囲気を伝える上で効果的です(わたしにはぜんぜんわからない会話も多かったのですが^^;;)。「魔夜峰央と森雅裕が同一人物だという噂は本当なのかな」というお遊びにも笑ってしまいました。

「さらば6弦の天使」
 人気ロック・バンド“4 REAL”との“対バン”に負けたバンドのメンバがつぎつぎと殺されていく。そして“EN GUY”の女性ヴォーカル・油木歌純(ゆうきかすみ)が誘拐された! 犯人の要求は,“4 REAL”と,4年前に解散した“HERGA”との“対バン”だった…
 最近のミュージック・シーンにはとんとうといわたしではありますが,本作品中に出てくる当麻巧未(たいまたくみ)というキャラクタのモデルは,小○哲○なんでしょうね,よくわかりませんが^^;;(それにしても,おぼえにくい「読み」の名前が多いなぁ・・・)。
 それはともかく,前作がどちらかというと淡々とした静かな展開であったのに対し,こちらは誘拐事件,記者会見場での犯人からの電話,“対バン”に向けての緊張感と,アクティヴでアップテンポな展開です(もっとも“HERGA”のメンバは,例によってマイペースですが(笑))。謎解きの部分が少々説明的な感じがしないでもありませんが,“対バン”当日でのサスペンスフルな描写と,劇的でもの悲しいエンディングが,作品を「ギュッ」と引き締めているように思います。

 ところで,2作品ともに,芸能人やらなにやらの,さまざまな固有名詞が頻出しますが,このことはもしかすると,主人公の音楽観を語ったセリフ,
「残る必要なんかないのよ。歌は時代を反映するのが役割だもの。時代の魂さえ,こめられていれば充分よ」
と響き合うものがあるのかもしれません。

 もうひとつ追加。ちょっと誤植が目立ったのが残念ですね。変換ミスと思われるところもありましたが,登場人物の名前が間違っているところなどもあって,興を殺いでしまってます。

99/09/05読了

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