遠藤周作『第二怪奇小説集』講談社文庫 1977年
「疑惑というのは嫉妬と同じで歯車が回り始めると次々に別の歯車を回転させていくのかもしれない」(本書「幻の女」より)
タイトルにあるように,『怪奇小説集』に続く第2集。9編を収録しています。ただし,前集と違って,「怪奇」と冠していますが,どちらかというと心理サスペンス的なテイストの強い作品集です。
気に入った作品についてコメントします。
「幻の女」
古本屋で買った本に書かれた女性名。木田はそこから犯罪の臭いをかぎ取るが…
古本には,ときおり前の所蔵者の蔵書印やメモなどが残されていることがあります。それをお嫌いになる方も多いようですが,わたしは,それはそれで,けっこう面白味を感じたりします。犯罪を描いた翻訳小説と,前の持ち主の境遇が似ているところから,主人公が妄想を膨らませていくところに,妙にリアリティを感じてしまうわたしは悪趣味でしょうか?(笑)
「偽作」
再婚した妻の書いた小説が新人賞を受賞。ところがそれは…
妻が偽作で小説賞を受賞したゆえに,しだいしだいにのっぴきならぬ状況へ追い込まれていく主人公。それがもたらす結末は,「お約束」だけですが,そこに,タイトルの意味が二重性を帯びてくるツイストがいいですね。それにしても,ある意味,無関係な主人公を巻き込む妻の心理は,怖いですね(やや不自然な観もありますが…)。
「憑かれた人」
切支丹関係の資料収集に血道を上げたコレクタが,最後にたどり着いたのは…
冒頭に挙げた文章のように,疑惑や嫉妬と同様,「所有欲」もまた留まることを知らないのかもしれません。最後の木っ端と化した聖母像は,そんな所有欲の虚しさを描いていると思ったのですが,作者は,さらにもうひとつ「底」を設定することで,もっとドロドロとした所有欲のおぞましさを見事に浮かび上がらせています。本集中,一番楽しめました。
「蟻の穴」
20数年ぶりに訪れた故郷・宝塚。そこに思い出したくない記憶があり…
本編の「怖さ」とは,「変わらない怖さ」ではないかと思います。かつて性欲を満たすためだけにつきあった女の妊娠に脅えた男が,20数年経っても,基本的には同じ心性を持ち続けるということ−そのへんに本編の「怖さ」があるのではないでしょうか。結局,「見たくない過去」はけっして「過去」にはなっていないのでしょう。
「娘はどこに」
その外国人は,25年前に別れた娘を探しているという…
物語はいったい奈辺に落ちるのか? そんな先行き不透明感の末に思わぬツイスト。それまでの,無理やり「テレビ的美談」を作り出そうと奔走するテレビ・マンたちの胡散臭さとのコントラストが鮮やかで,思わず苦笑が漏れます。
03/04/11読了
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