真刈信二・赤名修『勇午』7〜10巻 講談社 1997・1998年

 敏腕のネゴシエータ・別府勇午を主人公としたシリーズの7〜10巻は,返還直前の香港の利権をめぐる暗闘を描いた「香港編」(7巻・8巻前半),かつての盟友とともに,IRAのテロを阻止しようとする「イギリス編」(8巻後半・9巻・10巻前半),インドで消息を絶った友人を探す「インド編」(10巻後半・未完)です。

 さて毎回,勇午は鋭い洞察力とトリッキィな戦術,そして不屈の闘志によって,さまざまな危難を乗り越えていくわけですが,その「危難」のうち,敵方に捕らえられた勇午に加えられる,ご当地特産(笑)の拷問が,どうやらこのシリーズの「売り」のひとつのようです(よくよく考えてみれば,すごい「売り」ですね(((((((^^;;)。

 まず「香港編」では,彼は「塩漬け」にされます(そのほか,「箱詰めの刑」やら「蒸気むしの責め」やら「逆さ吊り」やら「海老折り」やら「むち打ち」やら,品揃えが豊富です)。「傷に塩を擦り込むような」という言葉があるように,ただでさえ「痛い」ところへもってきて,勇午は,甕の中に大量の塩と一緒に入れられ,ほとんど,人間漬け物状態です。
 ずいぶん前ですが,『西太后』という映画で,塩漬けだったかどうかは忘れましたが,西太后がライバルの妃だか姫だかに,やっぱり甕の中に縛り込んで(手足を切断して?)入れ込むという拷問を加えるシーンがあったと思います。もしかすると,そこらへんに元ネタがあるのかもしれませんが,なんともエグイですね。さすが中国5000年の歴史です(<意味不明)。

 一方「イギリス編」。やっぱり「牧畜の国」ですねぇ,特産品は,なんといっても革製品!!です(<をいをい^^;;)。焼けたグラスを,肌に押しあてるなんてのも,牛や羊にする焼き印を連想させますし・・・。で,勇午が着せられる皮革製のコスチュームに加えて,拷問する側が女性と来れば,これはもう,
「女王様とお呼び!」
というセリフが出てこないのが,不思議なくらいです(笑)。拷問用品とSM用品って,やはりなんらかの関係があるんでしょうねぇ・・・

 なんだか今回はおちゃらけた感想文になってしまいましたが,もちろん各編,「民族間の対立」や「正義とはなんなのか?」,「人間とは?」といった重く深刻なテーマを,サスペンスフルなストーリィ展開の中で描き出しています。とくに「イギリス編」のラスト,
「アーサー,我々の負けだ。自ら殉教者のように死ぬ事でオコーナーのこの作戦を成功させた。この映像を何千万の人間が見てると思っているんだ。彼が殺された事で,たくさんの新しいテロリストが生まれてくる」
という勇午のセリフは,イギリスとIRAとの泥沼のような闘いのやりきれなさを浮き彫りにしているように思います。

99/01/08

go back to "Comic's Room"