真刈信二・赤名修『勇午』4〜6巻 講談社 1995・1996年

 交渉人(ネゴシエータ)・別府勇午の活躍を描く本シリーズ,ふたつ目の交渉の相手は広域暴力団です。先代社長の殺人教唆を証明する録音テープがある,と脅迫された呉竹グループの社長から交渉を依頼された勇午。しかし彼は,この脅迫の背後に別の意図が隠されているのでは,と疑い・・・というお話。暴力団相手に,毅然として,また相手の手口を逆手にとって「交渉」を進める勇午の水際だった姿は,なんともかっこいいです。それと「ルポライター北村邦彦」。なんでこの作品の脇役勢は,いずれもちょっとしか顔を出さないのに,魅力的でインパクトがあるんでしょうねぇ・・・。

 そして3番目のエピソードの舞台はロシアです。ロシア革命時の亡命貴族の二代目から,ひとりの少女の亡命を依頼された勇午は,単身凍てつく大地へと飛びます。しかし彼を捕まえようと襲いかかるロシア内務省対内諜報局,そして少女の身の証である指輪に隠された莫大な財宝。はたして勇午は少女を救い出せるのか?
 このエピソードの見どころは,何度も諜報局に捕まり,拷問をかけられながらも,仕事を完遂させようとする勇午の姿でしょう。とくに,指輪に隠された,ある番号を吐かせようとする諜報局に対して,「答に行き着いてしまっては,捕まったときに自白させられる恐れがある。だから考えるのをやめた」というところは圧巻です。
 交渉において,その場その場での臨機応変もたいへん重要な要素ではありますが,それとともに,「相手がこう出てきたら,こう切り返す」という,二手も三手も先を読む洞察力もまた,それ以上に求められるものなのでしょう。相手がロシアの諜報局であることがわかった時点で,「逮捕されたら」とか「自白されたら」とかを想定して,行動する(考えをやめる)というところは,思わずうなってしまいました。
 ラスト,少女の一言が,勇午の苦難と人々の欲望を昇華させます。指輪に秘められた数字,「それはロシアに神の愛がもたらされた年です」。そして「最後の最後で偶然に賭けたわけだな」に対する勇午のセリフ,「僕は人の心に賭けたのです」。「交渉」というものが,詰まるところ,人と人とのせめぎ合いの解決だとしたら,最後に拠ってたつものは,やはり「人の心」なのかもしれません。
 それにしても,ロシアが舞台といえば,これまでKGBが定番でしたが,やはりこれも時代の流れなのでしょうかねぇ・・・。

 4つ目のエピソードは「香港編」です。1997年7月,中国への返還を目前に迫った香港で,勇午はきわめて危険な交渉を依頼(?)されます。内容は,見たものは生きては帰れないと言われる「黒社会」のボス・洪薫(ホンファン)から,「翡翠の犬」を取り返すこと。失敗したら,勇午の友人マギーは,「何百人もの男の玩具として生きる事になるわ。もう二度と陽の光を浴びる事もないでしょう」
 6巻の段階では「香港編」は始まったばかりなのでコメントは避けますが,勇午の依頼人(脅迫者)・愁林という女性。なんだかむちゃくちゃ怖そうなお姉さんです。チャイナドレスに冷酷な女性というのは,一種独特のエロチシズムがありますね。あまりお会いしたくないですが(^^ゞ

98/10/09

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