魔夜峰央『妖怪缶詰』全2巻 白泉社文庫 1999年

 この作者といえば,『パタリロ!』『ラシャーヌ』といったギャグマンガで有名ですが,たしかデビュウは怪奇マンガですし,また上記2作に並行しながら,ブラックなコメディ・タッチの掌編も発表しています。本書は,作者のそんな側面の作品を集めたものです。傾向として1巻が「和風」,2巻が「洋風」といったところでしょうか。
 気に入った作品についてコメントします。

「妖怪女妖観音」
 焼き物で観音像を作る光琳は,無頼者に絡まれる女を助けたことから…
 ラストの展開は,怪奇ものとしてはオーソドックスなのですが,描き方が巧いため,「をを!」と驚かされます。サイコものみたいなテイストも持っているところも新鮮に感じられました。
「妖怪油赤子」
 ひとり留守番をする笛子。彼女の拾った赤ん坊はじつは…
 理由も目的もわからず,ただ油を飲む赤ん坊・・・まさに「妖怪」ですな。主人公の最後の一言は,いかにも『パタリロ!』の作者です(そういえば『パタリロ!』でも,電話ネタのギャグはけっこうあったな・・・)。
「妖怪稚児地蔵」
 かつて魔物の親子が住んでいたという一軒家を借りた家族を待ち受けていたものは…
 これは,ショッキングな結末がじつに怖い作品ですね。人間の善意を逆手にとるところは,まさに「魔物」の「魔物」たる由縁でしょう……
「パンドラキン1」
 スパゲティの大好きなトムは,ある日,不思議な木の根を手に入れ…
 この作品,好きなんですよね。ラストのツイストの見事なブラック・コメディです。まぁ,実際にはあんな風にはならんでしょうが(笑)。
「タロット」
 有能すぎる占い師・サラは,みずからの死を予言し…
 丁寧に描かれた画面が,幻想的な雰囲気を醸し出しています。またどこか映画のシーン,カットに通じるようなコマ割り,アングルもいいですね。女医さんのキャラクタも,いかにも洋画に出てきそうな感じですし・・・。
「怪奇生花店」
 ミロールが経営する生花店は,他の店ではけして真似できない,美しい花を栽培していた…
 ネタ的には,怪奇ものでしばしば見かけるものとはいえ,やはりこの作者の独特のタッチが生きている作品です。このミロール,『パタリロ!』にもたしか1回だけ出演していて,そちらの方も,ミステリ・タッチで楽しめた記憶があります。
「焼き肉はいかが?」
 焼き肉用ソースのセールスマン・トムは,刑事に頼まれて,怪しい男の家を訪れ…
 「パンドラキン」と同様,ブラック・コメディです(主人公キャラも同じですし…)。刑事の一言で,ギャグだと思っていた“ある行為”が不気味な意味を持ってくるラストが秀逸です。

98/05/05

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