山下和美『天才柳沢教授の生活』14巻 講談社 1999年

 5編のエピソードを収録しています。以前より1編のヴォリュームが増したようです。

「第118話 本のささやき」
 柳沢教授の家に忍び込んだ本の窃盗犯。そこへ花粉症の教授が帰宅し・・・
 「本」というのは不思議なものです。その書かれている内容の善し悪しが問われる一方で,その内容以外の部分―初版であるとか,稀少であるとか―が取りざたされ,流通しています。教授窃盗犯との会話の「ずれ」は,ともに「同じもの」を対象としながら,まったく違うところを見ていることに由来するのでしょう。教授らしいラスト・シーンは,ほんわかさせられますね。なんだか,最近,某ミステリ系ページでかわされている「古本論争(?)」を連想させます。
「第119・120話 熱き血潮のままに」
 世津子の通う小学校に来た代行教員の新井圭二。彼は教授の教え子で,一風変わっていた・・・
 教授の娘世津子の思い出を描いたエピソードです。「柳沢家で通る論理はここでは全く通用しなかった。向こうの言っていることはムチャクチャだと思っても,多勢で無勢で何も言い返せなかった」という彼女のモノローグが印象的です。ここで描かれている子どもたちの姿は,単に子どもであるがゆえの残酷さではないように思います。
「第121話 おとうと」
 父親が,亡くなった恩師の息子を連れてきた。良則は彼を受け入れようとするが・・・
 教授の少年時代を描いた,このシリーズの「定番」のひとつです。新しい「弟」が来て,姉の則子のストレートな振る舞いとは対照的に,少年の教授が「この状態をひとつの大きな実験としてとらえる」としながらも,弟に対する嫉妬心が見え隠れするところがいいですね。「おっきい手はある。うちに帰ればある」と語るところは,良則が心の底から弟を受け入れたシーンとして,「ジン」と来ます。
「第122話 性(さが)」
 教授が将棋を教えてもらっている老人・流山には暗い過去があり・・・
 4巻に収録されている「第34・35話 希望行きのバス」は,「夢見る老人」に対する,教授の,消すことのできない虚無感を描いたエピソードです。今回のお話に出てくる老人は,そのエピソードとはまったく異なるタイプですが,やはり教授とはまったくスタンスが違っている点では共通します。彼がヤクザな世界に戻っていくのをとどめることができず,教授は自分自身の無力を痛感します。こういった価値観が異なるキャラクタ―とくに教授と同世代の―との関係を描いたエピソードでは,教授の人間的な側面―限界を持ち,苦悩し,怒る側面を露わにされており,読んでいて,教授がますます好きになります。
「第123話 樹のささやき」
 お母さんが法事で家を空けた日,教授と世津子は1日の計画を立てるが・・・
 最初のうちは教授に反発していた世津子ですが,ヒロミツからファザコンであることが指摘されて以来,ふたりの関係はどこかほのぼのした感じになりましたね。ふたりが同じような「一日の計画表」を見せ合うところは,思わず笑っちゃいます。それにしても,以前だったら反発を感じてしまったであろう,親子関係を「樹」に喩える言い回しを,「そんなものかもしれないな」と思ってしまうのは,やはりわたしが歳をくったせいでしょうか?(^^ゞ

99/12/06

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