山下和美『天才柳沢教授の生活』10巻 講談社 1997年

 なにを隠そう,というほどのことでもないのですが,柳沢教授は,わたしのとって理想に近い人なのです(笑)。滑稽なまでの実直さ,老いてなお旺盛な探求心と好奇心,毎日夜9時に寝て朝5時半には起きる規則正しい生活,そしてときおり見せるユーモアと純真さ(本人の意図はともかく),なによりもみずからを律する力強い意志と不動心。もしかすると,自分にないものを持っているキャラクターだからなのかもしれません。

 だから,そんな柳沢教授の幼少の頃や若い頃のエピソードは,「どうしたら,こういう人物になったんだろう」ということを知る上で(?),とくにお気に入りです。その中でも5巻に収録されている「再会の時」「2人の原点」が好きなのですが,この巻でも,「嘘の研究」「その表情(かお)の向こう」といった少年時代,学生時代のエピソードが掲載されていて,うれしいです。「嘘の研究」での「D愛すべき嘘」というところでは,思わずじーんときて,その直後の「単刀直入」に噴き出してしまいました。ここらへんの落とし所がなんともうまいですね。やっぱり教授に嘘は似合いません。

 それからあくまで個人的なことなのですが,最近,夜になると野良猫(だと思います,もしかするとどこかの飼い猫?)が,餌をもらいにやってくるので,「サスケの微笑」は,あの猫たちは,昼間どういう風に過ごしているのかな,などと連想させてくれた楽しい作品です。お母さんが「お父さん,知りたい?」と,振り返りながら言うところの表情がいいですね。タマが近所でなにをしているかを,とうに気づいているんですが,調べようとする教授を止める気力もさらさらない,といった一種あきらめの表情というか・・・。教授との長年の夫婦生活で,いままでにも似たようなことが何度もあったのではないでしょうか(^^;

 ところでカバーに以前は,教授のモデルである作者のお父さんの古いモノクロ写真が使われていたのですが,いつのまにか作者の写真を掲載されるようになって,ちょっと寂しいです。

97/05/27

go back to "Comic's Room"