伊藤潤二『うずまき』2巻 小学館 1999年

 「うずまき」に呪われた街・黒渦町を舞台にした短編シリーズの第2巻です。主人公・五島桐絵の身の回りにある,普通であればなんてことのない,さまざまな「うずまき」,それらが異形のものへと変身していきます。
 たとえば「第7話 びっくり箱」の「うずまき」は,タイトルであるびっくり箱の「バネ」(「弾条」という漢字が個人的には好きなんですが・・・(^^ゞ)です。人を驚かせることがなにより好きな同級生・山口満が,桐絵に恋をした。ところが彼は事故死してしまう,そして土葬された彼は墓地から蘇り・・・というお話。びっくり箱のバネ,自動車のサスペンション,ゾンビという三題噺のようなネタをミックスさせて,不気味で恐ろしげなストーリィに,グロテスクでブラックなコメディ色を混ぜ込んでいます。このへんのセンスがこの作者らしいところでしょう。
 「第8話 ヒトマイマイ」はカタツムリです。雨の日にしか登校しない片山君。いじめにあって全裸にされた彼の背中には奇妙なうずまきが・・・。何度か書いてますが,わたしは小さな昆虫がおぞおぞ,ぐちゃぐちゃ集まっているというのが大嫌いでして,それがナメクジやカタツムリといった陸生軟体動物の場合は,そのおぞましさが二乗されます。ですから,この作者のねちっこいタッチで描かれた「ヒトマイマイ」の姿態は,「恐怖」というより,鳥肌が立つほどの「気持ち悪さ」「生理的嫌悪感」を感じます。自分の絵柄の効果をよく心得ているようですね,この作者^^;;
 「第9話 黒い灯台」は,この巻で一番好きなエピソードです。岬にある黒い灯台が,ある夜から,禍々しいらせん状の光を放ちはじめ,それ以来,街では不可解な出来事が続発し・・・という内容。「らせん階段」というのは,ミステリやホラーの作品でしばしば出てくるモチーフですね。やはり,登り着く(あるいは降り着く)先が「見えない」ということが,登り降りする者を不穏な気分―「いったい何処に行き着くのだろう?」―にさせるからかもしれません。この作品では,そんならせん階段の行き着いた先に,さらなる「うずまき」が待ちかまえており,「なるほど,こういうところにもうずまきがあったのか」と驚かせます。眼球のような溶けた大レンズの造形も秀逸ですね。
 「第10話 蚊柱」では,「黒い灯台事件」で火傷を負った桐絵が入院した病院では,奇妙な妊婦が大勢入っており・・・というお話。桐絵のいとこ恵子が入院した際に持ち込んだ布巻きの道具の正体に,思わず「をを! なるほど」と思いました。「蚊」からこういうものに繋がっていくところがユニークですね。
 「第11話 臍帯」は病院編のつづきです。母親が吸血して育った胎児たちがついに誕生,彼らはいったい何者なのか? 「臍帯」という「うずまき」によって繋がる母親と胎児――母子関係というのは,男性であるわたしには想像のつかない一種独特のものがあるように思います。それは男性である作者にとっても同じことなのかもしれません。妊娠中の女性は読まない方がいいかもしれません。
 「第12話 台風1号」は,おそらく地上最大の「うずまき」が登場します。突然発生した台風1号は,黒渦町の上空から去ろうとせず・・・というストーリィです。「台風に恋された少女」という発想がなんとも楽しいですね。最近は差別的表現だということで,ハリケーンに女性名だけをつけることはなくなったそうですが,台風を男性に見立てるパターンはちょっと珍しいかもしれません。ま,どちらにしても,惚れられた方はたまりませんね^^;;(そういった意味で,「キング・コング」なんかと相通じるものがあります)

98/04/21

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