中城健『ウルトラQ<全>』朝日ソノラマ 2000年

 テレビ版『ウルトラQ』は,いまのわたしの小説やマンガ,映画などフィクションに対する嗜好を(すべてとはいわないまでも,かなりの部分)決定していると思います。特撮技術は,現代の作品から見ればたしかに稚拙なものですが,奇想に満ちたシュールな内容は,いまでも充分鑑賞に堪えうる佳品です。本書は,そんなシリーズの中から10エピソードをマンガ化したものです。ですから,テレビ版に対する思い入れがある分,以下の感想は,どうしてもテレビ版(ヴィデオ版)との比較対照的な部分が多くなってしまっています。
 ちなみに作画者は,格闘マンガの怪作『四角いジャングル』中城健です(途中まで気づきませんでした(笑))。

「ゴメスを倒せ!」
 弾丸道路のトンネル掘削現場に怪獣が出現! それは古文書に伝わるゴメスだった…
 このエピソードは,ヴィデオで持っているので,このマンガ化作品が,テレビ版を忠実にトレースしていることがわかります。ただリトラの造形が,テレビ版の「鳥鳥」したそれに比べると,かなりファンタジックにデフォルメされているようです。
「五郎とゴロー」
 野生猿で有名な淡島に巨大猿が現れた。その背後には猿を愛する少年の姿が…
 これもヴィデオで持っているのですが,ストーリィが違っています。ゴローが巨大化する原因も,自然のものではなく,「ヘリプロン結晶G」なる薬品で,旧日本軍が戦争用に開発した薬であるという,なかなかヘヴィな設定になっています。「解説」によればテレビ版にも2ヴァージョンあったとのこと。南海の「巨大猿伝説」を絡めたビデオ版のストーリィより,こちらの方がすっきりしているように思います。
「ペギラが来た!」
 南極の昭和基地が,常識を超えたブリザードに襲われた。その原因は怪物だった…
 原画が行方知れずになってしまったため,掲載誌からのコピーで復刻しています。ですからちょっと印刷が悪いです。ですが,このエピソードを収録することで「完全版」になったとのこと。映画『南極物語』のモデルになった犬が元ネタになっているようです。マイナス90度の極寒の中で素肌をさらしているのは,少々リアリティに欠けますね(笑)。それにしても,この作品に出てくる科学者は,メイン・キャラクタの一の谷博士以外,みんな頭が固いという設定になってますね^^;;
「クモ男爵」
 道で迷った万城目たちは,森の中で奇怪な屋敷に避難するが…
 『ウルトラQ』は,奇想天外なストーリィだけでなく,こういったストレートなホラー作品も含まれているところに,他の「怪獣もの」とはひと味違っているところがあるように思います。つぎつぎと襲いかかる巨大クモ・タランチュラ,屋敷からの決死の脱出など,サスペンスに満ちてますね。エンディングのナレーションも味わいがあります(テレビ版と同じなのかどうかはわかりませんが・・・)。
「鳥を見た」
 小さな漁村の沖合に現れた幽霊船。その船は一羽の不思議な鳥を運んできた…
 この作品だけ,主人公の万城目の造形が違っています。「解説」によれば,マンガとしてはこのエピソードが最初に掲載されたそうで,テレビ版の放映との時間的前後関係が気になるところです。鳥籠を破って,鳥が巨大化するシーンが,記憶に深く焼きついています。
「ガラダマ」
 深い山中で発見された「ガラダマ」。それは地球侵略を狙う異星人の尖兵だった…
 怪獣というと,ゴジラをはじめとして,爬虫類や哺乳類をモデルにしたところがありますが,本編の怪獣ガラモンの姿形は,それらから大きくかけ離れています。そういった点で,ガラモンの造形は,このあとに出てくるケムール人とともに,『ウルトラQ』の中でも出色のユニークさを持っていると言えましょう。もっともそのユニークさゆえに,のちにピグモンなる,お茶らけた「怪物」に堕落してしまいますが・・・
「2020年の挑戦」
 全国各地で,謎の人間消失事件が相次いだ。そして万城目たちも姿を消し…
 個人的な思い出としては,巨大化したケムール人が,観覧車を破壊するシーンが印象的なのですが,このマンガではそのシーンがそれほど大きく取り扱われていないのが,ちょっと残念です。それと,こういった「オチ」は,いまでこそ慣れてしまっているとはいえ,最初に見たときのショックは忘れられません。それにしても「2020年」といえば,もう20年後じゃないですか! やれやれ・・・
「南海の怒り」
 南海で消息を絶った第五太平丸を追って,コンパス島に飛んだ万城目たちが見たものは…
 巨大タコスダールがいることによって守られている「島の平和」,スダールを殺すことによって得られた「自由と平和」。はたしてどちらがよかったのか? 本エピソードの内容を,ためらいなく「良し」としてしまえないところに,この作品が作られた時代背景と,現代との違いがあるように思われます(あるいは,単なる個人的な想いかな?)。
「燃えろ栄光」
 連戦連勝を続けるボクサ,ダイナマイト・ジョー。しかし彼の勝利には秘密があった…
 この作品に出てくる「怪獣」ピーターは憶えていましたが,ストーリィは完全に失念していました。たしかに,怪獣が暴れ回る他のエピソードに比べると地味であり,子ども心には魅力はあまりないかもしれませんが,改めて読むと,すごく哀しくせつない一編だったのですね。
「206便消滅す」
 万城目たちが乗った飛行機206便が,飛行中に姿を消した。彼らが迷い込んだ場所とは…
 「魔のヴァミューダ海域」が元ネタなのでしょう。同乗者に犯罪者を入れることで,サスペンスを盛り上げています(「オリオンの竜」なるネーミングは,思わず笑っちゃいますが^^;;)。ラストのナレーションもユーモラスでいいですね。

00/03/21

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