田渕由美子『チュー坊がふたり』講談社漫画文庫 2000年

 あの田渕由美子の「育児コミック」です(「育児」といっても,タイトルにありますように,すでに子どもたちは中学生なんですが)。
 「あの」をわざわざ強調したくなる気持ちは,ある一定の年齢を超えた方にはご理解いただけるのではないかと思います。そう,田渕由美子といえば,太刀掛秀子・陸奥A子とともに,『りぼん』誌上において一世を風靡した「乙女ちっくマンガ」の描き手のひとりであります。『ふらんす窓便り』『クロッカス咲いたら』『夏からの手紙』などなど,少女たちの恋心をやさしく暖かく,そしてコミカルなところも織り交ぜながら描き出していました(上記3人の中ではこの作者が一番好きです。とくに『フランス窓便り』中の「Part2 苗子」。太刀掛秀子の『ミルキーウェイ』も捨てがたいですが)。
 そんな彼女が,いまや2児の母親,おまけにふたりとも中学生(本書が出た現在では大学生!)。この作家さんの「その後」については,ほとんど情報を持っておらず,噂で「育児マンガを描いている」とは聞いていたのですが,こうして実際に手に取ってみると,なんだか,こう,感慨深いものがありますね。う〜む・・・光陰矢の如し・・・月日は百代の過客にして・・・祇園精舎の鐘の声,諸行無常の響きあり・・・・いやはや,なんとも(^^ゞ

 まぁ,それはともかく,この作品,息子ウロ太中学3年生,娘のか子中学1年生(ふたりとも偽名でしょうねぇ),夫オットセイ(笑)との,なんてことはない毎日を描いています(オットセイさんは,どうやら昔の担当さんのようです。う〜む・・・少女マンガ家に「ありがち」なパターンですね^^;;)。
 要するに,基本的には「親バカマンガ」であります(笑)。
 しかし,「親バカマンガ」ではありますが,ぜんぜんいやらしくない。いやさ,むしろおもしろい。そこはやはり,この作家さんのすぐれたユーモア感覚,コメディ・センスなのでしょう(「西川峰子のデビュー曲」ですね(笑))。
 たとえば「愛ある肩こりグッズたち」で,市販の肩こり解消グッズに続けて,「その6 のか子・中1」「その7 ウロ太・中3」「その8 オトサン」と並べてしまうところとか,娘と映画を見に行ったところ,見たい映画が「R指定」で中学生は見られない,で,通りかかった見も知らぬおねーさんに代わりに切符を買ってもらうという「一緒に行きましょう」とか,要するに,自分自身(と家族)を対象化し,おちゃらけできるセンスと言えましょう。ですから,作者の親バカぶりが,笑いながら眺められます。
 もちろんその一方,子どもたちに対する愛情もしっかり伝わってきます。「こんな夏休みもあった・・・」は,それぞれの生活を作り始めた子どもたちを横目に,幼い頃の彼らと過ごした夏休み−しんどかったけれどそれでも楽しかった夏休みを,彼女お得意のリリカルなタッチで描いています。また「母の日はシヤワセ」は,子どもたちから母の日にプレゼントをもらう喜びをコミカルに描いています(ええ子供さんたちやないすか。自分のことを考えると,ちょっと反省^^;;)。あるいは,子どもたちとのジェネレーション・ギャップを描いた「わが家にも新人類がいる」「思春期くん」も,いい味を出していますね。それにしても,作者の側に同調してしまうわたしもまた,やはり「古代生物」なのでしょうかね?^^;;(でも,混んでいるバスや電車の中で,目の前に空席に座らない中学生や高校生を見ると,腹立ちますよね)

 いずれにしろ,リリカルをメインとしながらも,そこにコミカルを加えた作品を描いていた作家さんだけに,これからはコミカルをメインにしてリリカルを隠し味に入れるような,こういったテイストの作品も期待できそうです。
 本編を読むと,いまでも作家さん活動は続けている様子,どのあたりに描いておられるんでしょうね。ご存じの方がおられたら,ぜひご一報を(_○_)

00/08/09

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