高橋葉介『腸詰工場の少女』朝日ソノラマ 1999年

 短編(掌編?)4編と中編1編を収録しています。
 ところで次回配本は『猟奇博士』とのこと。これって「ごく最近」というイメージがあるんですが・・・(歳のせいか?^^;;)

「腸詰工場の少女」
 腸詰工場で働く那由子は,ある日,工場の秘密を知ってしまったことから…
 一種の「貧乏残酷物語」とでもいいましょうか。憎々しいやつが惨殺されようと,別になんということはありませんが(<それはそれで問題がありそう^^;;),こういった「いたいけな少女」の物語は,なんとも哀しくてやりきれませんねぇ(T_T)。ああ,カタルシスがほしい……元ネタはやっぱり夢野久作「人間腸詰」かな?
「骨笛」
 骨笛に合わせて骸骨を踊らせる少年。その金に目を付けた悪党は…
 この作者お得意の無言劇です。かわいい感じの少年と,グロテスクながらどこかユーモラスな骸骨のダンスというミス・マッチがいいですね。フキダシの中の音符も,絵にリズム感を与えていて好きです。
「魔女の右腕」
 戦争で右腕を失ったバイオリニストは,魔女から右腕を与えられる。ひとつの約束と引き替えに…
 オーソドックスな「魔女との取引」ネタです。「右腕を与える」という魔法がじつは…という,ラストのツイストが楽しめます。でも,奥さんに罪はないものなぁ…
「SCYLLA」
 死体を結びつけて人工的に生み出された少女は,春を売らされ…
 これまた無言劇です。残酷でグロテスクで,そして哀しい…なぜかヴィスコンティあたりが作りそうな映画を連想しました(偏見?)。ちなみにタイトルの「SCYLLA」とは,ギリシャ神話に出てくる6頭12足の女怪だそうです。なるほど・・・
「Uボート・レディ」
 海底から引き上げたUボートに乗って,ケチな密輸に精を出すキャプテン・クロセ。いい金になるということで3日ほど少女を与ったのが運の尽き。ナチス残党の陰謀に巻き込まれ…
 この作品,タイトルは前々から知っていたのですが,じつをいうと,初読なんですよね。書誌情報を見ると,初出は1985年の『ウィングス』とのこと。ちょうどマンガから少し離れていた時期の作品なのです(<端的に言って金がなかった(笑))。ですから,なんともうれしいです。おもしろかったですし。
 物語は,まさに「痛快冒険活劇」といったところです。ひとりの少女によるUボートのシー・ジャックからはじまって,背後にあるナチス残党の陰謀,少女の意外な正体,退行したヒトラーのクローン(笑),迫力あるクライマックスと,テンポよくストーリィを展開させる好中編ではないでしょうか。どちらかというと,この作者は,切れ味の鋭い短編にその本領が発揮されているという印象が強いですが,こういったきちんとした中編も描いているんですね(いや,他の作品が「きちん」としてないというわけでは,けしてないんですが・・・^^;;;;;;;;;)。この作者,『夢幻紳士』の「少年探偵編」などで,ナチス・ネタはけっこうありますが,そのネタを一番まとまった形で描いているのが本作品でしょうね。

99/09/18

go back to "Comic's Room"