西原理恵子『鳥頭紀行ぜんぶ』朝日新聞社 1998年

 さて,最近,にしかわさん@本の虫茶房の掲示板で話題になっている“鳥頭”です。「鶏は三歩歩くとものを忘れる」という,ありがたい格言(?)を元ネタにして,「どこへ行っても三歩で忘れる」とゆーキャッチフレーズで,サイバラが日本あちこちだけでなく,タイやらマカオやら韓国やらまで足をのばした,ノンフィクション・トラベル・コミック(笑)です。

 最初の連載は,文芸春秋社の『マルコ・ポーロ』(なんまんだぶ,なんまんだぶ),続いてスターツ出版の『オズマガジン』(この雑誌,知りません),そして最後が朝日新聞社の『uno!』(この雑誌,いまもあるの?)で打ち止め,と,3つの雑誌を渡り歩いた放浪の連載作品です。あの犬猿の仲,宿敵,もしかすると近親憎悪の文芸春秋社と朝日新聞社の雑誌に連載された作品が,1冊の本にまとまるなんて,出版界の奇跡と言えましょう(<ちょっと大げさ)。

 内容はというと,例によって“濃い”です。恐山に行けば,まだ生きている人間の霊を呼びだしてくれとイタコのばあちゃんに頼むわ,青森の自炊湯治場では,調理室の調味料をがめるわ,佐野厄除け大師を頭から否定するわ,タイでは農業用の噴水器で冷水を相手かまわず掛けまくるわ(まぁ,これはセートーボーエーかもしれませんが・・・),韓国では「落っこちた橋とひしゃげた百貨店と統一原理教会に行きたいです」とガイドさんに申し込むわ,サイバラ御一行が世界を股にかけて悪行の限りを尽くします。相変わらず“人生,地雷地帯を全力疾走!”といった感じです。
 最後の「あとがきさすらいまんが」にいたっては,この本の真っ赤な表紙に対して「この本は表紙が共産党風で気に入ってます」と一言。サイバラの本が,ふたたび朝日新聞社から出ることはあるのでしょうか?
 読んでいる方が,他人の人生ながら心配になります(笑)。

 ところで,この作品ではじめてサイバラさんのお顔を写真で見ました。彼女の描く無頼系の作品―『まあじゃんほうろうき』とか読むと,なんだかとんでもない女性のようなイメージが強いのですが,けっこうまともそうなので,びっくりしました(笑)。とても,実名で知り合いの旧悪を暴露するといった鬼畜のような所行をするような人物には見えません。まぁ,「人は見かけによらない」という,奥深い俗諺もあることですから(笑)。

 最後の方に「ちん坊」という,ほのぼの系の短編が1編,収録されています。作者の「高校球児観」がよく出ている作品です(笑)。

 ちなみにわたしも,読んだ本の内容を,読んだはしから忘れるという,立派な鳥頭です。

98/04/30

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