伊藤潤二『富江 Again』朝日ソノラマ 2001年

 この世ならぬ美貌で,つぎつぎと男たちを狂わせていく美少女−富江。しかし,彼女に惚れ込んだ男は,必ず彼女を殺したくなる。それも残虐な方法で・・・けれども,富江は殺されても殺されても蘇る・・・増殖する・・・そして,新たな犠牲者がまた・・・

 というわけで,また映画化されるんですね。『富江 re-birth』とのこと。なんだか,ほとんど「ジェイソン状態」になっているような(笑) まぁ,彼女にはもともとそういった「復活」の属性が備えられているわけですが・・・・
 今回も富江をめぐる人々を描いた7編を収録していますが,もしかすると,富江にもっとも取り憑かれているのは作者自身なのかもしれません(笑)。

「第1話 少年」
 サトルは,海辺の洞窟で切り刻まれた女の死体を見つけた。しかし彼女は生きていた・・・
 少年にとって異性とは「女」であるとともに「母」でもあるのでしょう。富江という「母性」からもっともかけ離れた存在に,「私はその子のママよ」と言わせることで,どこか落ち着きの悪さを醸し出しています。いや,むしろそれがおもしろいのですが・・・それにしても,ラスト,「めでたし,めでたし」というセリフが続きそうなブラック・ユーモアが感じられますね。
「第2話 もろみ」
 富江を殺し,ミンチにした男は,友人の酒蔵にそれを運ぶが・・・
 グロテスクの極みのようなエピソードですね。酒好きの人間にとっては,思わず口許を抑えてしまうような・・・^^;; それにしても,酒蔵から蘇る無数の富江や「巨大富江」のイメージは,なんだか『エ○ァ○ゲ○オ○』を連想させますね(笑)
「第3話 ベビー・シッター」
 ベビー・シッターの衿田にまかされたのは,奇怪な赤ん坊だった・・・
 主人公のベビー・シッターが「壊れていく」様が,じつにおぞましく真に迫るものがあります。とくに首(?)を絞めて殺そうとしてためらうシーンとか,彼女の心の揺れ動きを上手に表現しています。「お馬ごっこ」で,主人公が「ヒヒーン」と鳴くシーンも怖いです。ラストの凄惨美も迫力があります。本集で一番おもしろかったです。
「第4話 ある集団」
 恋人を失った梅原は,友人からある集団への参加を誘われ・・・
 富江の魅力に勝てるのは「死者」あるいは「死者の想い出」しかないのかもしれません。そしてその「想い出」さえも富江に侵食され,狂わされていくのでしょう。富江に信者(?)の男たちが大勢積み重なって殺し合うシーンに,おぞましさとともに,どこか奇妙な滑稽さが感じられるところは,この作者のセンスなのでしょう。
「第5話 通り魔」「第6話 トップ・モデル」「第7話 老醜」
 妹のアヤカは,家族に似ない美貌の持ち主。ところが同じ町内に,そっくりの美少女がふたりおり・・・
 一応,別話という体裁になっていますが,一連のワン・エピソードです。富江に人生を破滅させられたモデルの男の「復讐」と,3人の富江同士の殺し合いという,ふたつの流れを重ね合わせながら,サスペンスフルな作品に仕上げています。モデルの復讐の方法はなんとも凄まじいものですが,殺しても復活し増殖する富江に対して,「老醜」を突きつけるという発想は,当たり前のようでいて,「おお,なるほど!」と納得してしまいました。しかしそれさえも・・・というところが,富江の恐ろしさなのでしょう。

01/03/21

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