岩明均『七夕の国』2巻 小学館 1998年

 昔ながらのしきたりを守り,丸神一族の持つ力を秘密にしようとする丸川町の人々。彼らに反旗をひるがえし,みずからの力の“有効利用”を目論む東丸高志は,“ナン丸”こと南丸洋二に接近,彼に力の使い方を指導する。
 一方,その力を利用して,権力との結びつきを図る謎の男・丸神頼之。明らかにされぬ目的のため,頼之は,殺人さえも厭わない。その威力を見せつけられた権力の側も,力を持つ者を探して,暗躍を始める。
 また丸神の里の歴史を探ろうとする丸神ゼミの面々は,丸神の里で行われる神事が,グレゴリオ暦(現行暦)に依っていることを発見する。ヨーロッパでグレゴリオ暦が施行されるはるか以前から・・・。

 不思議な力を持つ丸神一族の血を引いたナン丸の物語は,いまだ不可解な霧に包まれたまま,スロゥペースで進んでいきます。けっして描き急いだり,変に不要なショック・シーンやアクション・シーンをいれるような作家さんでないことは重々承知しているつもりですが,それにしても,やきもきするくらいにゆっくりとしたストーリィ展開です。う〜む,ちょっとしんどい部分もありますねぇ,せっかちなわたしとしては(笑)。
 ま,いずれにしろ,現在は謎を深めていく過程というか,さまざまな謎が散りばめられているといった感じです。ただ,この巻で出てきた「グレゴリオ暦」のエピソードは,丸神一族の源流というか祖先が,どうも地球以外にありそうな雰囲気を匂わせています。たしかに丸神一族の長の異形の姿―額に巨大な水晶みたいなものが突き出ている―や,丸神頼之の6本の奇妙で不気味な掌の形は,地球人離れした存在を思わせます。また,より強大な“力”をもつとともに,身体が変形していくようで,ナン丸の額にも“血マメ”みたいな突起が出てきています(ナン丸の“ぼけらっ”とした風貌はけっこう好きなので,個人的にはあんまり変えてほしくないんですが・・・)。そんな風に想像すると,本書のタイトル『七夕の国』というのも,なにやら意味深長に思えてきます。

 さて丸神一族の秘められた力をめぐって,さまざまな思惑が交錯する中,ナン丸はしだいにその渦中に巻き込まれていくようです(いまのところ,まだほんの“さわり”といった感じですが)。また前巻から出てきた「窓を開いたもの」「手の届いたもの」というのも,単純に「力」の有無を意味するだけでなく,さらなる秘密があるようです。そしてもうひとつの気にかかるのが,丸神一族の旗の文様。掌と黒丸は,一族の「力」を意味しているとしても,カササギの絵柄はいったいなにを象徴しているのか? 七夕伝説によれば,7月7日,カササギが天の川に橋を架け,それを渡って牽牛と織り姫が会う,とのことですが・・・。
 物語が秘める謎がすべて明らかにされるのは,まだまだ先の話のようです。楽しみでもあり,辛くもあり・・・(笑)。

98/04/06

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