岩明均『七夕の国』1巻 小学館 1997年

 物語のオープニングは戦国時代。島寺通康率いる数千の軍隊に立ち向かうのは,「丸神の里」の男女わずか10名。が,突撃する島寺勢に襲いかかる一陣の閃光。一瞬にして先陣は壊滅,通康もまた不可思議な力の前に戦死。それから数百年後,ときは現代,微力ながら超能力を持つナン丸こと南丸洋二は,行方不明になった丸神教授を追うゼミ生らとともに,「丸神の里」へ向かう。そこで彼らを待っていたものは・・・。

 『寄生獣』でブレイクした岩明均の新作は,超能力テーマの伝奇ものです。発表誌も『アフタヌーン』から『スピリッツ』に移りました(講談社がよく手放したなあ・・・)。主人公ナン丸の「微超能力」(このネーミングはなんとも秀逸です(笑)),「丸神の里」のゴルフ場開発をめぐる殺人事件,失踪した丸神教授の秘密,七夕の夜,丸神の里の人々が神域としている丸神山で行われる秘儀,そして「手がとどく者」と「窓を開いた者」という謎の言葉・・・。1巻目はまだまだプロローグという感じです。そこかしこにさまざまな謎が散りばめられる一方,一癖もふた癖もありそうな人物たちが登場し,不穏でミステリアスな雰囲気が漂っています。とくに高志という,それこそナン丸の対極にいるような刃物のような青年の存在が,これからのストーリー展開の要になるのではないでしょうか?(高志vsナン丸のサイキックバトル?)。そしてなによりも『七夕の国』というタイトルがいったいなにを意味するのか,が,大いに興味引かれます。一見ほのぼのとした感じのタイトルですが,なにやらヘヴィな謎が隠されているようで・・・。また『寄生獣』で見せた迫力のあるアクションシーンもまた,その片鱗が顔をのぞかせているだけに,今後が楽しみです。

 それにしてもこの作者の描く主人公というのは,ある種の共通性があるようですね。『寄生獣』の主人公・泉新一も,最初の方は,どちらかというとのほほんと生きている,どこにでもいるタイプという感じでしたし,今回の主人公も,それに輪をかけたように,よく言えばのんびりしておおらか,悪く言えば「なにも考えていないんじゃないの?」という感じです。なんといっても顔に緊張感がない(笑)。そんな彼らが,突然,非日常的なシチュエーションに投げ込まれ,右往左往しつつ,新たな状況を切り開いていく,というのが,もしかするとこの作者のパターンなのかもしれません(と,第1巻で言い切ってしまうのは不安ですが・・・)。

 ともかくも,この作者は,先を急がずじっくりと書き込んでいくタイプでしょうから,こちらも腰を据えて,今後の展開を楽しみたいものです。

97/07/05

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