高階良子『高階良子殺人事件コレクション』1・2巻 講談社 1998年

 昨今の「ミステリ・コミック」のブームに便乗している気配がないわけではありませんが(『金田一少年』と同じ講談社というところがまた…^^;;),手に入りにくい作品の復刊は,読者としてはうれしい限りです。
 ところで,本書は古本屋で購入したのですが,奥付を見ると今年の6月刊行。なんともはや・・・,「古い本を売っている」という意味での「古本屋」という概念は(少なくともマンガに関しては)すでに滅亡しつつあるのかもしれません。出版社の側からすればたまらない事態なんでしょうね。いやはや……。
 全3巻のようですが,とりあえず購入できた1・2巻所収の4編についてのみコメントします。

「学園祭殺人事件」
 大瀬財閥のひとり娘・美春。彼女の周囲に謎の外国人女性が出没し,不気味な事件が頻発する。そしてふとしたはずみから,彼女はその外国人女性を殺してしまい…
 大金持ちのひとり娘,そのボーイフレンド,ひとり娘を狙う酷薄そうな青年,ボーイフレンドに横恋慕する女子生徒,謎の女と彼女が連れている黒猫……,舞台設定は「いかにも」という感じですね(笑)。エドガー・アラン・ポーの『黒猫』を絡めるあたりも,この作者の怪奇趣味がよく出ています。トリックそのものは,まぁ,途中で見当がつきますが,ボーイフレンドが真相に気づくシーンは,なかなか本格ミステリしている感じです。描き方もうまいですしね。
「修学旅行殺人事件」
 女子高生・五月亜里のボーイフレンド・池垣薫が,修学旅行先の京都で殺害された。ところが1年後,彼にそっくりの男性が彼女の前に現れ…
 ネタばれになるので書きませんが,この作品もポーの有名な作品に影響されたところがあるのではないでしょうか? 少々「2時間サスペンスドラマ」を連想させる内容ですが,薫の生死を確かめるため墓を暴くシーンの「オチ」は工夫されていておもしろかったです。
「円の中の殺人事件」
 野鳥愛好会の望遠鏡をイタズラ心でのぞいた酒井響が見たものは,人が殺される現場だった…
 「学園祭」もそうでしたが,この作者,ミスリーディングにけっこう凝るタイプの作家さんのようです。ハンカチをめぐるエピソードは,しっかり騙されました。「彼がなぜそんなことをしたのか」という動機がすっきりしているところがよかったですね。ただプールのところは,「これでうまくいくんかいな?」とちょっと疑問に感じましたね。ところでこの作品だけ,ちょっと絵のタッチが違うのは発表年のせいでしょうか?(うう・・・初出データをちゃんと出してほしい(T_T))
「ピアノ・ソナタ殺人事件」
 学園の「女王様」の聖子と,取り柄のない育。ピアノを弾いている聖子に突然降り注いだ硫酸! 周囲には誰もいなかったのに! 彼女の死後,育の様子に奇妙な変化が…
 一種の不可能犯罪を描いた作品で,そのトリックはちと苦しいところがありますが^^;;,むしろふたりの少女をめぐる確執,ヒロインの心の葛藤などの描写が,作品を盛り上げているように思います。また脇役として登場するテニス部部長の少女が,ストーリィにリズム感を与えています。1・2巻のうちでは一番楽しめた作品です。

98/10/12

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