成毛厚子『水迷宮』1〜4・6巻 小学館 1985〜1990年

 「水迷宮」というシリーズのホラー短編集です。古本屋で買ったので,5巻だけ抜けていますが,ご愛敬ということで。
 この作家さんの描くホラーやスリラー,サスペンスものは,多くがエロチックな雰囲気を漂わせています。とくにこの作品集は,「少女マンガ」と呼ぶには,もう少し年上の読者を対象として描かれたようで,不倫やら遺産相続やら,どろどろとした男女関係が,題材として取り上げられているものが多いですね。
 まぁ,なかには『○曜ワ○ド劇場』みたいな「2時間サスペンスもの」じみた雰囲気(とくに“納涼怪談特集”みたいな)もあり,もの足りないところもあったのですが・・・。
 気に入った作品のみコメントします。

「生贄」(1巻)
 僕は妖精を飼っている。その妖精を奪おうとするものは,誰であろうと許さない…
 ラストで明かされる,“妖精”の羽音「ワーン,ワーン」の正体が,怖いというか,ショッキングです。一方で「なるほど,巧いな」と納得しました。
「ママへの贈り物」(3巻)
 死んだママの看護婦だったエレイン,今日からは新しいママ。“私”はずっと待っていた…
 いつも美しく,いつも正しいエレインの正体と,彼女に対する主人公の復讐の物語です。主人公の少女が「なぜ,エレインを待っていたのか」が,ポイントになります。
「夢」(3巻)
 砂漠をさまよう夢から覚めたマーシャ。しかし彼女に出された食事はすべて砂で…
 “現実”だと思ったら,じつは“夢”で,“夢”と思ったら,じつは“現実”。そんなお話がわたしは好きです。この人生は,乳幼児の自分が,生まれて最初に見ている夢かもしれない……そんなこと,お考えになったことありませんか?
「瓶詰めのステラ」(3巻)
 恋人が赴任先の南太平洋の島から持ってきた,海水のはいった瓶。そこには1枚の紙片が浮かんでおり…
 瓶の中に入っている水を通じて,ふたりの女が憎み合う(?)という,発想がおもしろいです。でも引きずり込まれるべきは主人公ではなく,不実な恋人のようにも思いますが。
「眠る魚」(4巻)
 いとこの夫は大富豪。彼が熱帯魚好きであることを知った“私”は,親しみを感じるが…
 この話の中に,メスをめぐって殺し合うオスの魚というエピソードが出てきますが,ちょうどその正反対のお話。大富豪である男をめぐって,さながら熱帯魚の如く着飾った女たちが争う,しかし男にとって女は“エサ”でしかないという,そんなアイロニカルなお話です。たしかに色鮮やかな熱帯魚が泳ぎ戯れる水槽というのは,見ているだけで「ぞくり」と来るところがありますね。それと作者の女性を見る目というのは,冷酷なくらい残酷です。
「夢喰い」(6巻)
 ブティックに勤める“私”の周りに起こる奇怪な出来事。誰かが私を殺そうとしている…
 サイコ・サスペンスものというのは,叙述ミステリに似ていると思います。主人公の“心の軸”を前面に押し出し,周囲の状況を“軸からずれた”奇怪なものとして描き出す。そしてラストで,じつは主人公の“軸”の方がずれていたことを明らかにして,カタストロフ的なエンディングを迎える,というパターンです。冒頭に出てきた“シャケ弁”に思いめぐらすとき,最後のシーンは,グロテスクとはいえ,なんとも哀しいですね。

98/02/01

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