諸星大二郎『栞と紙魚子と青い馬』朝日ソノラマ 1998年

 『栞と紙魚子の生首事件』に続く「栞&紙魚子シリーズ」の第2弾です。
 主人公は,シリーズタイトル通り,栞と紙魚子。ふたりとも胃之頭(いのあたま)高校に通う女子高生。栞は本屋の娘,好奇心いっぱいの怖いもの知らず(でも友人の早苗に言わせると「神経が何本か抜けている」らしいです(笑)),一方,紙魚子は古本屋の娘,博覧強記で,どこか超然としています(ときどき「妖怪ハンター」みたいになります)。

 この作者,改めて言うまでもなく『暗黒神話』『孔子暗黒伝』『西遊妖猿伝』といった伝奇大作で有名な作家さんですが,その一方で,初期の怪作「ど次元世界物語」(あの「怒々山博士」の「♪トーモロコシガ ホーサクダヨ〜」で,ごく一部に有名な・・・)のような,とぼけた,というか,どっかずれたスラプスティック風コメディの描き手としての顔を持っています。
 この作品集も,伝奇ホラー的な作品もありますが,むしろブラック・コメディ・ホラーといったテイストの連作短編集です。

 で,この栞と紙魚子のふたり,まるで呪われたように(笑)怪奇な事件に遭遇するのですが,どうやらのその責任の半分は,彼女たちの住む「胃の頭町」とそこに住む奇妙な住人たちにありそうです。その筆頭が,ホラー作家の段一知(だんいっち)先生一家であります。奥さんは,どうやら「外国の人」のようで,ほんとに「外」から来た人のようです(笑)。「おじいちゃんと遊ぼう」では,その奥さんの両親が段家に遊びに来るのですが,その帰りの際,「誰も予報しなかった突然の強風が胃の頭町を中心に吹き荒れ,全半壊した家屋36軒,吹き飛ばされた自動車17台,倒された木数十本,病院で手当を受けた50人以上」という大騒ぎになります。おまけに胃之頭町に「ムルムル」なる,わけのわからない,でも無害な生き物を残していきます。このムルムル,互いの尻尾をつかんで輪になってダンスを踊ると,ネズミ算式に増えていく変な生き物ですが,ちょっと可愛かったりします(笑)。
 そしてなにより楽しいのが,その娘クトルーちゃんです。ペットのヨグとともに,「テケリ・リ! テケリ・リ!」と叫びながら,はしゃぎ回ります(「その筋の方(具体例:わんだらさん^^;;)」ならば,なんのパロディかは,見当ついたのではないかと思います)。

 わたしのお気に入りキャラは,この巻の「本を読む幽霊」で初登場し,その後,準レギュラとなった「蔦屋敷のお嬢さま」こと鴻鳥知子嬢であります。彼女のご先祖さまはグルメをきわめて,ついに娘を殺して,その人肉を食べたという鴻鳥和子さま(笑)。といっても,その娘の方も人肉嗜好があるみたい,で,その娘の霊が,ときどきこの知子嬢に憑依します。
「人肉ですわ! 人肉でバーベキューパーティーですわ!」
と,品の良い笑みを浮かべながら,包丁振り回します(笑)。そのアンバランスさが,なんともいえずラブリィですね^^;;

 それから一番笑ったのは,本巻唯一の伝奇ホラー「頸山のお化け屋敷」のワン・シーン,
栞「今回はなんだか変よ まるでホラーみたい」
紙魚子「じゃ いつもは何だってのよ」
です。

98/05/31

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