永久保貴一『新 カルラ舞う!』3巻 秋田書店 1999年

 さて,「新生カルラ」の第3巻は,3話よりなる短編集です。

「伊勢の禍神(まががみ)」
 伊勢神宮の磐座(いわくら)が壊された! 調査に向かった剣持と近江は,そこで,近づく男が死んでしまうという少女と出会う・・・
 「闇の幻術控シリーズ」とサブ・タイトルがつけられた本編は,剣持司池田近江を主人公とした,「カルラ・シリーズ」のサイド・ストーリィです。これで,3作目,くらいでしたかね?
 さて舞台は伊勢神宮。作中でも触れられていますように,内宮に皇祖神天照大神を祀る日本神道の中心地であります(へぇ,正式名称は単に「神宮」というんだ・・・)。ですから,短編で扱うネタにしては大きすぎるんじゃないかな,とも思ったのですが,神宮そのものというより,神宮の神職をめぐるエピソードにまとめているところは,巧いですね。
 明治政府は,一方で近代化政策を進めながら,天皇を中心とした国家を作り出すために,その支配の正統性を神話に求め,それに基づくさまざまな「伝統」を創出したといわれています(この「伝統の創出」は,さまざまな時代,国家において見られる現象だそうです。そう,現在でも・・)。その過程で「都合の悪い伝統」は排除され,圧殺されていきます。本編は,そんな「伝統の創出」の際に排除された一族の怨念を,少女と少年の恋をからめながら,描き出しています。この作者の着眼点の良さをよく表しているエピソードと言えましょう(女神・天照大神を祀る神宮で,明治以降,女性が排除されたというのは興味深いですね)。
「甲斐の石神」
 山梨県亀沢で「石神様」が盗まれた。その背後には,学級崩壊を起こした学校の教師が絡んでおり・・・
 こちらは扇姉妹が登場する本編です。
 マスコミで盛んに報道されている「学級崩壊」。小学生と接する機会のないわたしとしては,いまひとつ実感できないところがあるのですが,少なくても,ときおり路上などで見かける小学生の行動パターンに,首を傾げたくなることは多いですね。この作品の先生に同情してしまいます。
「安倍晴明の末裔」
 戦国時代,安倍一族が戦火を逃れ移り住んでいたという“名田庄”。安倍晴明の血を引く剣持家・谷山家をめぐって,奇怪な殺人事件が発生し・・・
 このシリーズのメイン・キャラクタ“闇の死繰人(シグルト)”こと剣持司の少年時代を描いた作品です。近江君がいやがる剣持の「変な格好」は,子どものときからであったことが明らかにされます(笑)。
 この作品では,剣持が安倍晴明の血を引くという設定になっていますが,この設定が語られるのは,もしかしてはじめてではないでしょうか?(もし間違っていたらご指摘ください)。それにしても,最近,「安倍晴明」ネタはあちこちで見かけますね。先日も本屋さんで「安倍晴明ガイド・ブック」みたいのが並んでいました。やっぱり魅力あるキャラクタなのでしょう。いろいろ伝説も伝わっているようですから,フィクション化しやすいと言えるかもしれません。
 ところで,「旧カルラ」「奈良怨霊絵巻」の冒頭で,12・3歳の剣持と扇婆さんが組んで事件―「蘇我入鹿首塚」をめぐる事件―を解決したと語られていますが,それについても,そのうち作品化されるのでしょうか?

 ※ 2001年3月27日追記
 メールで「剣持さんが安倍清明の末裔というのは、初期の頃からの設定ですよ。」というご指摘をいただきました。そこで,シリーズ初期のエピソードを読み返してみたら,「奈良怨霊絵巻」3巻で,剣持が藤原鎌足の霊に
「古来,藤原氏に仕えし安倍晴明が末裔,剣持司と申す陰陽師なり」と自己紹介してました。どうもすみませんでした(_○_) また,ご指摘,ありがとうございました(_○_)

99/08/24

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