諸星大二郎『西遊妖猿伝』13・14巻 潮出版社 1999年

 河西回廊を西へ向かう孫悟空と玄奘。しかし彼らの前には,峻厳な大自然と,ときに凶暴な女傑が,ときに奇怪な道士が,ときに一筋縄ではいかない怪人が立ちふさがる。彼らははたして天竺にたどり着くができるのか?

 強烈な個性を持ったキャラクタというのは,つねにそれと同等の,あるいはそれを凌駕する個性を呼び込むものなのでしょう。その強烈な個性同士のぶつかり合いの中で,さまざまなドラマが紡ぎされます。この作品では,玄奘悟空の「天竺行き」をメインの軸としながら,その道行に,いろいろなキャラクタを絡ませることで,波瀾万丈,奇想天外なストーリィを作り出しています。
 この「河西回廊編」で新たに登場した強烈なキャラクタといえば,まずは羅刹女という,凶暴かつ残忍,そのくせ妙に色っぽいおばはん(笑)でしょう。なにしろ,
「あたしの気に入る男はふたつさ。ひとつは抱きたい男。もうひとつは殺したい男。お前(悟空)はその両方だよ!」
というのですから,たまりません^^;; まぁ,一種の「サイコさん」とも言える女傑であります。
 羅刹女が「凶暴系」であるのに対して,「策謀系」といえば,一升金です。これまで,なにやら「不気味なもの」を持っていることは匂わされていた彼女ですが,13巻で,その正体(?)が明らかになります。一見あどけない顔をした少女は,じつは,ひとつ眼の「蛇蠱」を操る巫師だったのです。顔だけだったら,彼女よりはるかに不気味な析蜴居士をあっさりと撃退してしまいます。また,悟空を独占したいがために,
「早い話があの坊さん(玄奘)が死ねばいいのね・・・・」
と,さらりと言い放ってしまうところが,なんとも怖いです(^^ゞ

 なんだか女性キャラばかりですが,対する強烈な男性キャラといえば,なんといっても紅孩児であります。なにしろ,この物語の冒頭から登場,悟空の数奇の運命に巻き込まれながらも,これまでずうっと悟空の後を追い続けた男です。もう,こうなったら,紅孩児の悟空に対する想いは「愛」と呼んでいいかもしれません(笑)(もし,この作品の「やおい本」が作られたら,悟空と紅孩児の絡みシーンが描かれるかもしれませんね(=^^=))。
 しかしその紅孩児,14巻において,ついに壮絶な死を迎えます。炎に包まれた馬車を駆って悟空に向かう紅孩児,周囲は逃げ場のない山中の一本道,悟空はついに彼の如意棒で紅孩児の脳天を砕きます。ときに同志として,ときにライヴァルとして生きてきたふたりの関係の,哀しいまでに凄惨な終焉と言えましょう。かつての金角との決闘(双葉社版第3巻)に次ぐ迫力あるシーンですね。
 ただわたしとしては,紅孩児は,てっきり沙悟浄の役回りかと思っていたので,この巻での彼の死はちょっと意想外でした。う〜む,そうすると沙悟浄は恵岸行者なのかなぁ・・・それともこれから新たに出てくるのかな?

 ところで,各巻冒頭と末尾に,とぼけた弁士さんが出てきて「前巻までのあらすじ」や「次回予告」を語りますが,13巻での弁士さん,赤ん坊を背負って登場,末尾ではおしめを替えています(笑)。これって,もしかすると,作者に子どもができたことを表しているのでしょうか?

00/01/08

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