星野之宣『サーベル・タイガー』MF文庫 2001年

 7編の初期作品を収録した短編集です。作者が「あとがき」で書いているように,ペシミスティックなトーンの作品が集められています。

「サーベル・タイガー」
 氷河期,無敵のサーベル・タイガーの前に現れた巨大な「敵」とは…
 作者には失礼なのですが,この作品は,内容よりも,ダリの幻想抽象画
を思わせる表紙が,強く印象に残っています。また「滅亡でも消滅でもない閉じられた時間曲線」というのは,「人類滅亡」以上に悲劇的な結末なのかもしれませんね。
「ユニコーンの星」
 完全地球型惑星“エデン”に降り立った人々を待ち受けていたものは…
 移植民たちを襲う,さまざまな奇怪な現象。移植民たちの間で広がる疑心暗鬼と対立。惑星“エデン”に隠された秘密とは・・・と,サスペンス・タッチで展開するストーリィが楽しめます。そしてその「真相」も,「なるほど,こういうものがあるのか」と思わせる着眼点が秀逸なものです。
「サージャント」
 荒廃した地球で繰り返される戦闘。それは機械主導型の戦争だった…
  たとえどんなにハイテク兵器が進化したとしても,「人間の殺し合いなんだ。戦争の意味はそれだけだ!」なのでしょう。ラスト,兵士の休息を許可する「声」は,人間のものなのでしょうか,それともコンピュータのものなのでしょうか? 前者だとしたら,あまりにやるせないですね。
「アダマスの宝石」(原作/奥谷俊介)
 調査船が一隻も帰還しない惑星“アダマス”。そこには幻の“ダーク・スター・ダイアモンド”があるという…
 この作者にしてはめずらしい原作付き作品。ほかには『未来のふたつの顔』(原作/J・P・ホーガン)くらいしか知りません。「石」を不死の象徴と見る民俗例があるそうですが,そのSFヴァージョンといったところです。主人公が,アダマスで「見た」ものとは,愛するものの死を目前にした女性の哀しい夢だったのかもしれません。
「Quo Vadis−クォ・ヴァディス−」
 宇宙空間を不規則に飛ぶ巨大十字架。その正体とは…
 天動説から地動説への転換は,人類を,宇宙の中心から,無作為な座標“x”に移し替えました。“x”としての人類は,その視点から「世界」を理解し,把握しようとして近代科学を生み出しました。それが覆ったとき,人類はいったいどこへ(“クォ・ヴァディス”)行くのでしょうか?
「タール・トラップ」
 タールの沼を舞台にした3編よりなる連作掌編です。「第1話 めざめ」は,どこか寓話めいた作品ですが,それが「第3話 サスクワッチ」で意外な結びつきが明らかになるところは,驚きました。また「第2話 サンプル」は,大友克洋のタッチを思わせます。タールの中に沈む少年の呆然とした顔つきがちょっと怖いです。
「冬の惑星」
 言葉をしゃべることをタブーとする惑星“グインII”の住人に隠された秘密とは…
 地球時間でわずか1年半という,きわめて短い「生」を生きる“グインII”の住人。たとえ短くとも,そこには「生」の喜びと悲しみがあります。「言葉を持たぬ民族」が創り出した唯一の救い「氷の音叉」というSF的奇想を核にしながら,そんな「生」を鮮やかに描き出した佳品です。「観察者」の冷徹なセリフとのコントラストもいいですね。本集中,いやさ,星野作品の短編の中でもとくに好きな作品のひとつです。

01/08/19

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