柴田昌弘『龍の砦』1巻 学研 1998年

 平凡な高校生・松浦昌は,沖縄でダイビング中,突如暗闇に飲み込まれる。気づいたとき,彼は迅竜丸の乗組員・シンとなっていた。時は戦国時代,彼らは琉球尚王朝から倭寇撃退を依頼された“海賊”。うろたえる昌を待ち受けていたのは,南海を舞台とした大冒険だった!

 じつに久しぶりの柴田作品です。う〜む,結局『クラダルマ』読まんかったし,もしかすると『ブルー・ソネット』『ラヴ・シンクロイド』以来かなぁ・・・(°°)。
 物語の始まりは,現代の平凡な少年が突然過去に跳んでしまうというタイム・スリップもの,この作者の作品ではしばしば見られるパターンですね^^;;。でもって舞台は戦国時代の琉球(沖縄)を中心とした南海です。先日,山田長政を主人公とした,白石一郎の『風雲児』を読んだこともありますが,この時代,この地域(海域?)を舞台にした海洋冒険ものは,けっこう好きです。なにか,こう,陸上とは全然違う基準で生きる人びとに対する憧憬というか,さまざまな言語や考えを持った民族や国の人びとが交じり合うダイナミズムというか(それはそれでかなりハードでシビアな世界ではありますが),そんなところが読んでいて,ワクワクドキドキします。この作品でも,日本人や中国人,さらにはヨーロッパ人らしいキャラクタが入り乱れるようにして出てきます(もっとも,「日本人」「中国人」といった“くくり”そのものが,あんまりというかまったく関係ない世界であって,そこらへんがまた魅力であったりします)。まあ,単にわたしが沖縄が好きなせいもあるんですが・・・^^;;。

 さてこの巻の前半は,昌が右往左往しながらも,戦国時代にタイム・スリップしたことを受け入れていく様子を,状況説明を交えながら描いていきます。“シン”に思いを寄せていた少女・ナギリとの,ちょっとハードな(笑)ラブ・コメ(?)なぞも絡んできます。そして後半では,どうやらナギリやシンと過去において一悶着あったらしい“氷虎”なる人物が出てきて,ナギリを誘拐,それを昌が救出に向かう,と展開していきます。ここらへんのアップ・テンポでリズム感あふれる展開は,この作者の十八番でしょうね。
 で,十八番といえば,出てくる連中が奇想天外なところも,この作者らしいですね。ゴキブリを口の中に飼っていて(オエッ),そのゴキブリを相手にたからせることでマインド・コントロールしてしまう“坐々蟲(ザザム)”とか,女に強烈な性的快感を与えて虜にしてしまう能力を持つ“氷虎”とか,コミック独特の荒唐無稽さも楽しいですね。主人公自身も,危機に陥ると,自分も知らぬうちに“シン”の人格が出てくる,という設定のようです。
 また,途中に「倭寇」「琉球」「八幡船(ばはんせん)」「松浦党」といった歴史用語や背景の説明文章がはいっているところも,作品内容を理解する上で役立ちます。この作品を描く上で,ずいぶんと勉強したようですね,この作者。でも巻末の「龍の砦・沖縄取材記」は,遊んでいるようにしか見えませんね(笑)。

 今後の展開が楽しみな作品です。

98/07/03

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