ひらのあゆ『ラディカル・ホスピタル』5巻 芳文社 2003年

 「リングにタオル投げていいのはセコンドだけ…」(本書より 榊先生のセリフ)

 帯の惹句によれば「医療4コマの決定版」の第5巻です。こちらはまあ,ともかくとして,同じ帯の「誰もが望んだ理想の病院がここにある」というのは,このマンガのコンセプトと,ちょっと違うんじゃないでしょうかね? むしろ,オブラートに包まれているとはいえ,「現実」の中で奮闘する医師・ナース・患者たちをコミカルに描くのが,本作品のメイン・モチーフのように思うのですが…

 さてこの巻も楽しく読みましたが,4コママンガなので,ストーリィを楽しむというより,各エピソードで,扱われている素材を,どう「料理」しているかが,おもしろさのポイントになるでしょう。
 気に入ったエピソードをいくつか拾ってみると…

 まず退院した画家から送られてきた個展の案内状,それを見て「もし自分たちが芸術家だったら…」と空想するドクターたちに,赤坂先生が一言。
 「みんなしっかりして! 私達は外科医よ! 結果の見えにくい内科や精神科ではなく最も即物的な科を選んだのよ。適正あるわけないでしょ!」
 「なるほどなぁ」と納得してしまいます。この巻では,内科から配置転換になったナースの牧村さんが新キャラとして登場し,内科と外科の職場の雰囲気の違いに戸惑う姿を,ユーモラスに描いていますが,同じ医師の世界でも「業界」によって,やはり違うのでしょうね(赤坂先生のセリフで思い出しましたが,以前の巻に,調子の悪い榊先生をつかまえて,同僚のドクターたちが,「もし病気だったら」と相談,その結論が「まず腹を開いてみる」というのとシンクロするものがありますね)。
 で,医師も医師ならナースもナースということで,ミケランジェロの彫刻ピエタ像から彼女たちが連想したものが,「マザーテレサ」「脳溢血」「ストレッチャーもってきて」という,「ナースとしては立派な」回答の数々には笑ってしまいました。
 一方で,こういった,ある種の「即物性」「プラグマティズム」こそが,医学発展の原動力なのかもしれないな,などという,内容とはそぐわない(笑)大げさな感想も持ちましたね。

 それから榊先生が,患者さんから「一番いい医者を紹介してほしい」と言われ,落ち込むエピソードも印象に残りましたね。最近,とくに公的組織の老朽化が問題とされ,「外部評価」や「第三者評価」の導入が声高に叫ばれていますが,「何を基準に,どのように評価するか?」がつねに問題としてつきまとっています(とくに教育機関が難しいでしょうね)。
 そんな中で,医師の評価というのも,似たような課題を持っているのかもしれません(たとえば外科医の場合だったら,「手術成功率」とかが真っ先に浮かびますが,「成功率」とは何か? とか,あるいは虫垂炎とガンの手術を同一基準で評価していいのか? 違うとしたらどのようにランキングするか?とか,いろいろありそうです)

 なんだかユーモラスな作品に似合わないヘンな感想文になっちゃいましたが,最後に,一番納得したのは,「転倒,なめんなよ!」というセリフ。わたし,2年前に右腕を骨折したことがあるのですが(といってもヒビが入っただけですが),それも廊下での転倒によるものです。ホント,なめたらいけません(^^ゞ 皆さんもくれぐれもご注意を…

03/11/07

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