吉田秋生『PRIVATE OPINION』小学館 1997年

 『BANANA FISH』のふたりの主人公,アッシュ・リンクスと奥村英二。『BANANA FISH番外編』と名づけられた本書には,ふたりが出会う以前の物語2編と,「うら・BANANA」というエッセイコミックを収めています

「PRIVATE OPINION」
 ゴルツィネに呼ばれた“白(ブランカ)”は,彼の屋敷でひとりの少年と出会う。少年の名はアスラン・J・カーレンリース,通称“アッシュ・リンクス”,14歳。ゴルツィネが“神の器”と呼ぶ少年の“教育”を依頼されたブランカは・・・。
 本編後半の準主役・ブランカの目から見た若き日の(?)アッシュの物語です。ううむ,なんだかな,というのが正直な感想です。ここで語られる個々のエピソード,たとえば8歳にして第1級殺人容疑者となったことや,ゴルツィネの部下・マービンとの関係,そしてブランカとアッシュの関係といったエピソードは,たしかに本編では出てきませんが,改めて描かれなくても,本編で十分に想像できるような気がします。だからでしょうか,読んでいてあまり新鮮味が感じられませんでした。むしろ,本編に見え隠れする描写から想像される雰囲気だけの方が,かえってミステリアスで良かったような気もします。「秘すれば花」ですか(笑)。思いっきりうがった見方をするならば,この作品は,本書所収のもう1編,奥村英二の物語「Fly boy, in the sky」を単行本化するために書かれたのではないでしょうか?(うがちすぎ?)

「Fly boy, in the sky」 
 某美術大3年に籍を置く伊部俊一。友人たちとともに「デザイン大賞」に作品を応募するため,カメラの被写体を探す彼の前に現れたひとりの少年。彼の名は奥村英二,高校2年生。棒高跳びの選手である彼を撮影するため,伊部は彼の故郷・島根へと向かう・・・。
 「PRIVATE OPINION」が『BANANA FISH』の番外編として描かれたのに対して,こちらは本編に先行して,まったく独立した作品として描かれたものです(発表誌も違いますしね)。じつを言うと,雑誌掲載時にこの作品を読んで(うう,年がばれる),すごく気に入っていたのです。長いこと単行本化されたものを探していたのですが見つからず,じつに10数年ぶりに再会しました。だから思い入れのある作品なのです(「PRIVATE OPINION」に対する醒めた評価は,本作品と比べて,というのも一因なのかもしれません)。ただわたしの場合,この作品に対する思い入れは,奥村英二に対するというより,伊部俊一に対するものが強いようです。これから自分がどう生きていくのか,生きていきたいのか,生きていけるのか,そんな不安と迷いの中にいる伊部の姿の方が,雑誌掲載時に読んだわたしにとって,より切実に感じられたのです。つまり,わたしにとってこの作品は,英二と出会い,「長嶋のホームラン」を思い出す伊部が,カメラマンとして生きることを決意する物語なのです。だから『BANANA FISH』ファン(と英二ファン)には申し訳ないのですが,「これは『BANANA FISH』の番外編なんかじゃないんだ! 伊部俊一の物語なんだ!」と,つい,叫びたくなってしまうのです(笑)。それと伊部の恋人・英子さんが好きだったりします(<それが本音かい!)。

「うら・BANANA」 
 こういった,自分のキャラをおもちゃにできるクールな感覚って好きです。それからゴルツィネファン(?)のわたしとしては,「ゴルツィネに意外と人気があった」というのは,うれしいですね。

97/06/25

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