川原由美子『観用少女 プランツ・ドール』1巻 朝日ソノラマ 1995年

 その,すべてを飲み込むような混沌の街では,「生きた少女人形」を売っているという。しかし誰もが買えるわけではない。なぜなら「人形」が客を選ぶのだから・・・。そして植物に水が必要なように,「観用少女(プランツ・ドール)」には,心からの愛情が必要だから・・・。

 前々から読みたいと思っていたシリーズです。ようやく1巻だけ購入できました。「少女」「人形」とくれば,「怖い系」の作品かと思っていたのですが(<偏見,偏見!),どちらかというと「不思議系」でしたね。
 で,邪心たっぷりの人間(例:yoshir)から見ると,むちゃくちゃ「あぶない」方向になりかねないネタを,リリカルな絵柄と,コミカルな部分を導入することで,巧みに回避しているように思います(まぁ,『ネムキ』では,あんまり「あぶない」ネタは掲載しないでしょうが(^^ゞ)。
 それにしても,この作者の作品はひさしぶりに目にしたのですが,昔の「少女マンガ!」してたタッチを残しつつも,ずいぶんと雰囲気が変わったように想います。成人の顔を描くようになったからでしょうか?

「食卓のミルク」
 「観用少女」を買った男は,店の主人の忠告にも関わらず,彼女にお酒を与えたことから…
 おそらく,このエピソードは単独で描かれたんでしょうね。で,評判がいいのでシリーズ化した,と。アイロニカルなラストが苦笑させられます。「恋」と「結婚」は別物,という,言い古された言葉を換骨奪胎したようなお話です(あるいは,深い教訓が含まれているかもしれません(笑))。
「ポプリ・ドール」
 その街の「悪臭」にどうしても馴染めない男は,娘のたっての希望で「観用少女」を買ったが…
 人は「いい匂い」だから「好き」になるのでしょうか? それとも「好き」だから「いい匂い」と感じるのでしょうか? このエピソードの主人公にとって,「嫌いな街(厭な記憶がつきまとう街)」だからこそ,その街の匂いは「悪臭」と感じられたのでしょう。ですから,その「悪臭」に―その街に―取り込まれていく娘と恋人がよけい許し難かったのかもしれません。主人公が錯乱した末に迎えるショッキングなラストからも,本巻で一番好きなお話です。
「スノウ・ホワイト」
 「観用少女」が流す涙は,この世のものとは思えないほど美しい宝石に変わるという…
 この作品は,その「宝石」をめぐるふたつのエピソード,「Part1」「Part2」から成ります。「Part1」は,商売一徹の宝石商が,「観用少女」に貢いで貢いで貢いだ末に,「彼女」に溺れていくというコメディ(笑)。ここでの「観用少女」は,最初の1編の伝でいくと,しっかり「女」ですね^^;; 「Part2」は貧乏で病魔に蝕まれた青年と観用少女とのお話。コミカルではありますが,ラストでしんみりとさせられます。
「レイニイ・ムーン」
 その画家は,大富豪の老人から依頼され,「観用少女」の絵を描き始め…
 写真を撮られると魂が抜かれる,という俗信がありましたが,絵でも似たようなことがあってもおかしくないのかもしれません。有名なワイルド「ドリアン・グレイの肖像」の逆ヴァージョンとでもいいましょうか? 黒と白のコントラストを上手に使って,他のエピソードにはない独特の雰囲気を醸し出しています。
「ラッキー・ガール」
 「観用少女」を手に入れてから,ギャンブルでつきまくり始めた男がいた…
 やっぱりわたしは,「観用少女」よりも,この挿話のショート・カットの女性の方が好きですね(笑)。「ざまみろ,こんなまねはできまい」という,「観用少女」に対する彼女のセリフが,冒頭に書いたような「あぶない方向」へと転げ落ちないための「留め金」になっているのでしょう。「プランツ・ドール」はあくまで「観用」なのですね。

 このほか,本巻には,独立した短編「遠い水音」「春を解く呪文」の2編が収録されています。

98/06/11

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