魔夜峰央『パタリロ!』32・33巻 白泉社文庫 2002年

 えらいひさしぶりの『パタリロ!』です。いや,文庫は買い続けていたんですけど,ギャグ・マンガの感想文ほど書きづらいものはないもので,結局,ずっとスルーしていたんです^^;;
 じゃあ,なんで久方ぶりに感想文を書く気になったかというと,33巻の解説を二階堂黎人が書いているから,というわけでもないのでしょうが,ミステリ・タッチの作品が多くて,ミステリ者としては楽しく読めたからです。

 たとえば32巻最初のエピソード「ニセ札騒動」では,パタリロしか入れない宮殿地下の造幣局で,いったい誰がニセ札を作ったのか?という謎が提示されます。3人に絞られた容疑者から,論理的に犯人を推理するところは,すっきりとした本格ミステリしていますし,パタリロのギャグを上手に伏線として用いているところも巧いですね。
 また「雪の王国」では,死んだ国王のふたりの息子が次期王位をめぐって確執を深める南米のハマラヤ王国で起きた殺人事件が描かれています。殺人容疑で絶体絶命に追い込まれた嫡子を,パタリロが救い出すのですが,そのヒントを与えたパタリロの叔母ハマラヤ王妃を上手に扱うことで,(このシリーズにはめずらしく,といっても,ときおり思い出したようにありますが)余韻のある美しいエンディングとなっています。
 このほか,一種のアリバイ・トリックを使った「アマバン」,ダイイング・メッセージが出てくる「逢いみての」など,この作者のミステリ好きが現れている作品といえましょう。ギャグとしては,時代劇なので英語は使うな,ということで,パタリロが「だいいんぐ・めっせーじ」と答えるところに笑ってしまいました。

 一方,33巻の「ヒューバート氏の災難」では,「なぜ日本行きの便に保険をかけることを拒絶されるのか」という謎解きがあるのですが,その「理由」が,山口雅也の「キッド・ピストルズ」を彷彿させるような「奇妙な論理」で,楽しめます。また「妖怪ミステリー」では,なんと「妖怪密室殺人(?)事件」が描かれ,ある特定状況においてのみ通用するトリックを構築しているところは,ほとんど西澤保彦のSF本格的な「ノリ」が感じられますね。西澤テイストといえば,「下駄ッウェイ」では,星回りで(?)で,異様に推理能力が向上したパタリロが,小さなことから意外な真相を推理していくパターンは,まさに「妄想推理」と紙一重(あるいは,そのまんま?),といった感じです。
 そしてわたしが一番のお気に入りは「ブラフ」。公金を使い込んだ上に先物取引で大損したタマネギを救う(?)ために,マライヒたちが,パタリロにイカサマ・ポーカーを仕掛けるお話です。クライマクスでのバンコランとパタリロとの1対1での勝負の結末は,コン・ゲームならではの鮮やかなものです。とくにバンコランが用意していた「言い訳」がいいですね。たしかに読み返してみると,納得できます。
 このほか「名探偵の犯罪」のトリックは,古典中の古典,今だったら誰も恥ずかしくて使わないような類のものですが(笑),事件の現場に集まった名探偵たちが,だれもが「自分こそ犯人だ」と“自供”するという展開が,じつに楽しいものです。ちなみにわたしは,名探偵のひとりエルキュール=ポアロ=アンドナルスジャックというネーミングがマニアックで,好きです(笑)

 ところで,1994〜95年あたりから『別冊花とゆめ』に掲載されているエピソード,やたらと「4コマ・マンガ」的なコマ割りが使われていますが,なにか理由でもあるのでしょうかね? どうも違和感があります…

02/11/01

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