佐々木倫子『おたんこナース』5巻 小学館

 おまぬけな看護婦・似鳥ユキエを主人公としたこの作品も5巻目です。今回は,チームリーダーを任せられるなど,多少は成長したと思いきや,やっぱり相変わらずです(笑)。

 「病は人を変える」といいます。病院に行くほどのことはなくても,病気にかかったときの苦痛,不快感には,いらいらさせられますし,またなんとも弱気になります(とくにひとり暮らししているとひしひしと感じます)。病院に入れば,それに加えて憂鬱で,無力な思いに囚われます。そういったことは人の心を容易に変えますし,またそれは,看病している周囲の人々にも,確実に影響します。そういった,日常とは異なる非日常的な“心変わり”が,さまざまな“ドラマ”をつくりだすのだと思います。病院の場合,どうしても“悲劇”というドラマが多くなるでしょう。しかしその一方で,病気で苦しんでいる方には不謹慎に聞こえるかもしれませんが,そこに“喜劇”的な要素が含まれていることもたしかなのでしょう。心のすれ違いは,それが病気に端を発していたとしても,どこかユーモラスなものです。この作品では,病気そのものも描きながらも,(患者本人も含めて)病気を取り巻くさまざまな人々の心のありさまを描いているように思います。

 たとえば「カルテ28 適材適所」では,糖尿病治療のために自己コントロールのできない奥さんが出てきます。例によって短気なユキエは,彼女と摩擦を起こし,チームからはずされそうになりますが,思いがけず婦長からチームリーダーになれと言われます。リーダーになったユキエの悪戦苦闘ぶりが,この作者お得意のシニカルなユーモアに満ちたタッチで描かれるのですが,ユキエたちは,奥さんが自己コントロールできない理由の一端を優しすぎる甘い夫にあると考えます。で,夫の方を教育しようとするのですが,夫もまた糖尿病であることが判明します。夫が糖尿病であるとわかったとたん,奥さんの方は態度急変,自分も夫も含めた治療へと邁進,一段落という話です。自分のこととなると一生懸命なれない奥さんが,他人(=夫)のこととなると一生懸命なれる,責任ある立場に立つと,自分自身も変わるという患者の心理を,チームリーダーとなったユキエの心理と重ね合わせて描いています。

 また「カルテ26 憧れの散歩」では,長期の入院生活で鬱屈した患者の心を,「カルテ27 命の水」ではアルコール依存症患者の,酒を飲みたい一心でつく嘘の数々を,そして「カルテ30 褥創ケア」では患者を看病する妹の心の揺れ動きを,描いていきます。病気,あるいは入院というアクシデントは,多くの他のアクシデントがそうであるのと同様,どこか人の心の奥底に眠っているものを引き出すのかもしれません。

 ま,そんな風に堅苦しく考えなくても,たっぷり楽しめるシリーズです(^o^)。この巻では久米先生の「パパァ,頼みごとしていい?」に吹き出してしまいました(笑)。

97/12/27

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