佐々木倫子『おたんこナース』4巻 小学館 1997年

 『動物のお医者さん』の大ヒットで一躍メジャーになった佐々木倫子の看護婦を主人公にした作品ももう4巻目です。始まったときは,「動物の次は人間かあ」と多少(?)あきれた部分もなかったわけではありませんが(笑),やっぱり出ると買ってしまうのは,ファンの悲しさですね。

 この作者のコミックは,ギャグの中に奇妙なブラックさが入っていて,そこらへんがなんともいえない面白味を出しています(『動物』の漆原教授なんて,その典型例のような気がします)。だから,『動物』風のギャグを,人間の病院でやると,すごいやばい部分が出てしまうんじゃないかと,危惧していた部分もありましたが,そこらへんは,同じく彼女の持ち味であるクールさで,うまい具合に回避しているようです。とくに看護婦という職業は,一方で「白衣の天使」という勝手なイメージがあり,その一方で「3K」(死語)として敬遠されるという,アンビヴァレンツな評価がありますから,描き方によっては,当事者である看護婦さんから反発をくらうんじゃないかな,とも思っていました(とにかく続いているところを見ると,抗議のようなものはないのかもしれません)。

 そんな風な勝手なことを思っていたものですから,この巻の「カルテ23 私たちは天使だ!」には,感動してしまいました。このエピソードでは,先に書いたような「白衣の天使」というイメージと「3K」という現実の間で悩む主人公を描いています(もっとも主人公の「悩む図」は,この作者ですから,クールにまたコミカルになっています)。それでも「私たちはプロだからできるんです。だからなんなら認めたってかまいません。私たちは天使だ!!」という,最後のキメのセリフは,思わず「最終回じゃないのか?」と思うほどのかっこよさでした。
  この国は,へんな精神主義がはびこっていて,なんでもかんでも「○○道」にしてしまうような風潮がありますから,ビジネスとか,技術的なプロフェッショナルとかいったものに対する評価が低いような気がしてなりませんでした(最近はずいぶんと風向きが変わってきているようなところもありますが)。また逆に,金をもらってやることより,金をもらわないでやることの方が,たとえ技術的にお粗末でも,変に高い評価を得てしまうようなところがあります。「やっぱり心がこもってなくちゃね」みたいな考え方って,たしかに趣味の世界ではいいのでしょうが,それを技術で金を稼いでいる人もひっくるめて,「悪しきアマチュアリズム」を押しつけるのは,どう考えても筋違いのような気がします。

 なんか話がずれてしまいましたが,要するに,「大変な仕事」をしていること自体を誇りにするのではなく,「プロとしての仕事」を誇りにするというこのエピソードは,なにやら深く考えさせられる部分がありました(自分の日頃の仕事ぶりを振り返ってみて(笑))。

97/05/06

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