楠桂『鬼切丸』16巻 小学館 1999年

 CG画像が妙に目立つ(笑)第16巻です。3つのエピソードを収録しています。

「鬼呪いの章」
 マンションの隣に住む美人。恋人を捨てて彼女に惹かれ始めた大吾。それは彼女の「おまじない」のせいなのか…
 名前というのは不思議なものです。以前,女子中学生(高校生か?)が,「『こっくりさん』は怖いけど,『キューピッドさん』は大丈夫」と言っているのを読んだことがあります。やることは同じであっても,名前が違えば,人の評価は異なってきます。
 無邪気な響きを持つ「おまじない」と陰惨な印象が強い「呪い」。それぞれの言葉の与えるイメージはずいぶんと違いますが,ふたつはきちんとわけることができるものなのでしょうか? わたしには,両者に通底する同じものがあるように思えます。それは「他人をコントロールしたいという欲望」ではないでしょうか? 「憧れの人が振り向いてくれますように」と願う「おまじない」と,「彼の新しい恋人,死んでしまえ!」という「呪い」。両者はもちろんすぐ隣にあるものとはいえませんが,同じ道筋の違う場所なのかもしれません。ですから,「おまじない」は「呪い」へと容易につながっていく危険性をつねに秘めているように思います。
「狂鬼の章」
 「暗闇恐怖症」の女子高生・蛍。その理由は,彼女の失われた記憶の中にあった…
 失われた記憶の中に眠る過去の犯罪,カウンセラによる催眠療法,彼女は犯人の顔を見たのか? といったミステリ・タッチの展開は,ほとんど「サイコ・サスペンス」です。とくに,いかにも怪しげな「カウンセラ」の正体は,なかなかツイストが効いていて楽しめました。「鬼」や「鬼切丸」を無理に絡めなくても,充分に成り立っているように思います。それとラストをもう少し書き込んでくれるともっとおもしろかったのではないでしょうかね? ちょっとあっさりしすぎる感じです。
「双鬼の章」
 両親にも区別がつかないほどよく似た双子の姉妹・緑子と桜子。そのうちひとりは,じつは鬼だった…
 この作者が,同じマンガ家大橋薫と双子の姉妹であることは有名ですが,双子ネタはそれほど多くなく,わたしが知っている作品としては,他に1作くらいしかなかったのではないかと思います(ああ・・・手元にないので,タイトルがどうしても思い出せない!)。双子の人たちにとって,双子ネタの作品というのは,端から見てると描きやすいようでいて,じつはけっこう難しいのかもしれません(とくにホラー・タッチの作品の場合は・・・)。
 ところで,緑子の髪はベタ,桜子の髪は薄いスクリーン・トーンと描きわけていますが,作中ふたりは「親でさえ見分けがつかない」という設定です。まったく同じに描いたら読者は混乱するでしょうし,描き分けたら描き分けたらで,設定に説得力が生まれない・・・むずかしいところですね。
 それと,いつもメールをくださるきりえさんから教えていただいたのですが,このエピソードには,セリフに誤植があります。さてどこでしょう?(まぁ,わかりやすいところですから,気づいておられる方も多いでしょうね(^^ゞ)

99/03/04

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