楠桂『鬼切丸』14巻 小学館 1998年

 カバーの表紙裏を見ると,この作者のウェディング・ドレス姿の写真。でもって,ホームページを開いたというので,いやな予感に苛まれつつ,さっそく行ってみると,や・・やはり・・・・
 ガ〜ン!!
 じつは作品だけではなく,作者本人のひそかなファンだったのですが,ついに結婚されてしまうとは・・・。うっうっ(T_T) ここはファンのひとりとして(ぐしぐし),いさぎよく(げしげし),おめでとうと言いましょう!(オイオイ) お幸せにぃ〜〜〜〜!!(泣きながら走り去る)
 (ところでHPにアップされた,旦那と一緒に写った結婚写真。一般人だからでしょうが,旦那の顔のところにモザイクをかけてあるのは,ワイドショーみたいで,かなり怪しい(笑))。

 というわけで,14巻です(<すぐに立ち直るヤツ(笑))。さてこの巻最初のエピソードは,「悪路王の章」です。「悪路王」というのは,古代において坂上田村麻呂に討伐(いやな言葉ですね!)された東北地方の“鬼”です。おそらく大和朝廷の侵略に抵抗した蝦夷たちの象徴なのでしょうが,ここでは完全な鬼として描かれています。
 その悪路王が復活,彼を裏切った元妻で鬼姫・鈴鹿御前に呪いをかけるというお話。鈴鹿御前は,人間にすり替わり,女子高生として平凡な日々を送っている,そこに鬼切丸が絡んできて・・・というストーリィです。
 ところで,いま「鬼切丸」と書きましたが,作中でも再三述べられているように,これは主人公の少年の名前ではなく,彼の持つ刀の名前です。少年に名前はありません。鈴鹿御前は,「鈴鹿御前」という名前を持っているため,悪路王による呪いをかけられるのに対し,「鬼切丸」を持つ少年は名前を持たないがゆえに,鬼の呪いをかけられることがない,という設定になっています。
 相手に名前を知られるということは,自分の一部を他者に与えることであり,その結果,その他者による支配を受けるということでもあります。ある民族では,人はふたつの名前を持ち,ひとつは通称ですが,もうひとつは誰にも知られぬ「真の名前」で,一生他人に知られないようにするそうです。その「真の名前」を知られると,呪いをかけられるからです。現代人は,ひとつの名前だけでなく,「肩書き」という「名前もどき」を多く持ち,多く持つことに,どこかしら優越感を感じることがあります。しかし,「肩書き」を持てば持つほど,他者の支配をより多く受け,より多くの「呪い」をかけられているのでしょう。名前を持たぬこと,それは何者にも支配されない“自由”の別名なのかもしれません。
 このエピソードでは,鬼切丸は,鬼姫でありながら鈴鹿御前を切りません。むしろ悪路王から彼女を守り,彼女とともに悪路王と闘います。どうやらこのキャラクタ,あとでまた出てくるのではないかと思います。

 次のエピソードは「鬼戒めの章」。バイクの無免許運転で友人を事故死させてしまった青年をめぐる話です。心の中の,人には打ち明けられぬ秘密が,彼を鬼へと変身させてしまう,と思いきや,その背後には,もっと哀しい母親のやりきれない想いが隠されていたというストーリィ。“鬼”というのは,出口のない,ぐるぐる同じところを回り続ける,人の心の渦の中から立ち現れてくるものなのでしょう。そして最後のエピソードは,「鬼見の章」。他人の死が「見えてしまう」少女・小宮ひかるが,鬼に襲われるというお話。彼女の友人が鬼に変わるところが,いまひとつ説得力に欠けているようで残念です。

98/04/24

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