楠桂『鬼切丸』12巻 小学館 1997年

 その少年に名はない。ただ彼が持つ刀は“鬼切丸”と呼ばれている。純血の鬼ながら,角がなく,角の代わりが“鬼切丸”。鬼を切れば,人間になれると信じて,今日も同族殺しを続ける少年の物語。その物語も,もう12巻です。連載開始から5年,長いですねえ。

 で,今回は,鬼結城裏僧伽(そうじゃ)のエピソードもいよいよクライマックス。女を自由に鬼に変える能力を持つ結城七郎のエピソードが始まったのが7巻。鬼を喰らうことで,鬼を調伏する裏僧伽のエピソードは9巻から。ふたつのエピソードが絡んできたのが10巻。そしてついに12巻で完結。長く辛い物語が終わりました。
 いや,辛い,といっても,つまらないというわけではなく,けっこうおもしろかったです。ただ,読んでいて辛かった。七郎を支配する裏僧伽の寂影が,それこそ鬼のような女でして(笑)。ここらへんの,七郎を,それこそ猫が獲物をなぶるように追いつめるあたり,わたしが常日頃思っている,女性作家の「息苦しさ」みたいなものを感じます。「もう七郎をいい加減,解放してやってもいいんじゃないか」と,11巻で思ってしまいました。それもようやく終わってくれました。結末はもちろん,ハッピーエンドではありませんが,七郎も涼子に殺されて本望だったのではないかと思います。それが救いと言えば救いのような・・・。

 ところで,楠作品は,ここ1・2年で,絵柄も変わってきましたが,コマ割りがずいぶん凝った感じになりました。もっとも『鬼切丸』の1巻を読み返してみても,それなりコマ割りは凝っているのですが,12巻では,それがさらに凝った感じになり,少々読みづらい部分もあったりして・・・。この作者,デビュー当時はあまりコマ割りがうまくないな,と思っていたものですから,近年になって,急速にコマ割りに目覚めたのでしょうか?

 さてこの巻の最終話「怨鬼哀歌」は,明治の初めの頃が舞台になっています。今までのエピソードでも,主人公が若い兵隊の格好していたらしかったり(2巻「鬼生誕の章」)や,和服を着ていたり(4巻「海鬼神の章」),戦国時代の雑兵だったり(9巻「鬼結城誕生史の章」),少年と“鬼切丸”は,いろいろな時代を超えて,鬼を切りまくっていたようですから,明治の初めにいてもおかしくはありません。すると,この12巻の最終話は,これからの新しい展開の始まりなのでしょうか? さまざまな時代に出没する鬼と,そこに現れる鬼切丸,といった感じ。『鬼切丸』江戸時代編とか,戦国時代編とか。おお,『時の行者』(横山光輝)か『ポーの一族』(萩尾望都)(笑)。はてさて,今後も楽しみな一作であります。

97/05/20

go back to "Comic's Room"